映画 > 洋画
『ホビット 思いがけない冒険』
 かの三部作『ロード・オブ・ザ・リング』に先立つ物語、『ホビットの冒険』の映画化。これだけでもう観るひとは間違いなく観に行く映画だし、トールキンの世界をまったく知らないひとにこの世界を薦められるほど私も造詣が深くないし、感想と言っても書きようがないというのが正直なところ。
 でも、映画館での上映を見逃すのはとってももったいない映画であることは間違いがなくて、トールキンが描き出すこの上質のファンタジー世界にまだ触れたことがないひとはとにもかくにも観ておいで、と言いたい。
 『ホビットの冒険』は『指輪物語』(『ロード・オブ・ザ・リング』の原作)へと繋がってゆく重要な作品であり、『指輪物語』はそもそもは『ホビットの冒険』の続編として書かれた作品だ。『ホビットの冒険』が高く評価されたことで、『指輪物語』もこの世に生まれてくることになったのだ。

 遥か昔の地球、中つ国を舞台に広がるトールキン独自の世界には、人間、エルフ、ドワーフ、オークやトロール、そして人間よりも背が小さく、足裏に毛が生えていて靴をはかず裸足で暮らす種族、ホビットが住んでいる。
 物語は、ホビット村で牧歌的な生活を穏やかに楽しんでいるビルボ・バギンズの元に魔法使いガンダルフが訪ねてくるところから始まる。ガンダルフは、ビルボを冒険の旅に誘おうとしていた。かつて邪竜に故郷の国を奪われたドワーフたちはドラゴンから国と財宝を取り返す旅を計画しており、ガンダルフはその冒険にビルボも誘おうとしていたのだ。ガンダルフの策略で次々に押しかけてくるドワーフ一行に自宅を荒らされ怒るビルボだけれど、彼らが抱える故郷への哀愁に共感し、さらに生来の好奇心から、平和なホビット村を後にしドワーフとガンダルフの旅に同行することになる。

 唯一無二の世界観、圧倒的な映像が放つ迫力、個性あふれる魅力的な登場人物たち、そして広がってゆくストーリー。映画を観るのでもなく、ファンタジーにひたるのでもなく、まさしく「中つ国という魅惑的かつ未知の世界へ冒険にゆく」という体験を観るひとみんなに提供してくれる。もちろん原作から省かれた部分もあるのだろうとは思うけれど、これだけのハイクオリティで作品世界を再現してくれているのだから文句のあろうはずもない。
 この映画は、『ロード・オブ・ザ・リング』を観たことがないというひとにこそむしろ観て欲しい。そもそも原作の発表順も作品内の時間軸もこの『ホビット』の方が先なのだから、トールキンの世界への入り口としてぴったりなはずだ。
 かつて『ロード・オブ・ザ・リング』を観た身としてはこの映画に映る世界の隅々まで懐かしく、「帰ってきた」という感に胸が満たされた。

 『ロード・オブ・ザ・リング』と同じく、『ホビット』も全三部作。第 2 部は 2013 年 12 月、第 3 部は 2014 年 7 月公開予定ということで、楽しみが続く。
2012 年 | アメリカ | 170 分
原題:The Hobbit: An Unexpected Journey
監督:ピーター・ジャクソン
キャスト:イアン・マッケラン、マーティン・フリーマン、リチャード・アーミテージ、ジェームズ・ネスビット、ケン・ストット
≫ eiga.com
2012.12.25