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『モンタナの風に抱かれて』
 グレースは落馬事故で友人を亡くし、自身も右脚を失った。乗っていた愛馬イクリプスもひどい怪我を負って人間になつかない暴れ馬になり、グレースは生に絶望して内へ閉じこもるようになる。
 多忙を極める雑誌編集長という職に就きながら、母アニーは娘のためにイクリプスを回復させることを決意する。娘とイクリプスの絆を信じ、アニーがイクリプスの治療のために探しだしたのは、モンタナの牧場で働くトム・ブッカーという男だった。

 馬というのは他のどの動物にもない無二の存在感を備えていると思う。思慮深さを感じさせる眼や、自由という概念をそのまま体現したような解放感あふれる駆ける姿。人よりも神に近い生き物だと思わずにはいられない。
 大怪我を負って暴れ馬になったイクリプスと、イクリプスの持ち主である少女グレース。ふたりがそれぞれに抱えた孤独な傷が、互いの回復によって螺旋を描くように癒やされてゆく。

 そのふたりを囲むモンタナという背景が、ふたりの混じりけのない関係をよりはっきりと指し示す。何もない、雄大さだけが佇むモンタナの風景が、最大限の美しさで映像に収められている。実際にこの場に立ったら、おそらくこれほど美しくは見えないのではないかとも思う。この美しさは監督の目を通して見たモンタナであり、おそらくこの映画のなかにしかない美しさだ。
 その、イマジネーションのなかにしかない雄大な田舎牧場の美しさが、現実にはない美しさだからこそ、グレースとイクリプスの回復の尊さをありのままに描き出す。

 そしてこの映画には、グレースとイクリプスの他にアニーとトムというもうひとつの関係が骨子にある と、いうよりも、このふたりのラブストーリーの方が映画のメインである。
 けれども実はごく個人的な感想として、この映画に恋愛の要素は不要だとしか感じられなかった。あらすじを知らず観始めて、少女と馬の物語だと思って観ていた映画が展開を進めるごとに男女の恋愛物語にシフトしていってしまったのが、寂しくてならない。
1998 年 | アメリカ | 167 分
原題:The Horse Whisperer
監督:ロバート・レッドフォード
キャスト:ロバート・レッドフォード、クリスティン・スコット・トーマス、サム・ニール、スカーレット・ヨハンソン、ダイアン・ウィースト
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2013.12.11