映画 > 洋画
『君のためなら千回でも』 (The Kite Runner)
The Kite Runner
制作:2007 年 アメリカ
監督:マーク・フォースター
キャスト:ハリド・アブダラ / ホマユン・エルシャディ / ショーン・トーブ / アトッサ・レオーニ / アーマド・カーン・マーミジャダ / ゼキリア・イブラヒミ
>> eiga.com

 1970 年代、穏やかなアフガニスタンに父と暮らすアミールは、使用人の息子のハッサンと共に育ってきた。立場の違いがありながらも友人として遊ぶふたりだったが、民族対立と紛争が、ふたりの運命をくずしていく。

 ひとは弱さを持っている。疑うこともあるし、保身に走ることもある。誰よりも大切なはずのひとに、だからこその憎しみを感じることもある。
 これはそういう弱い人間の物語だ。人間の醜くも哀れな性を穏やかに認め、見つめて、そして救ってくれる。

 アミールとハッサンは決して対等にはなりえない関係だ。“上” に立っているのは裕福な父を持つアミールの方だけど、同時に自分たちの関係に不安を抱いているのもアミールだ。
 アミールは時にハッサンを試したくなり、憎みたくなり、視界から去らせたくなる。そんな自分自身に苦しみながら、厳格な父に育てられ自身の性格や好きなものを否定されることの少なくないアミールは、どうしてもどこか自分に自信が持てない。だから、強くなることもできない。
 愚かさを多く抱えるアミールと、ひとに揺るがされない芯を持ったハッサンとは、立場だけに留まらず様々な面で対照的だ。

 変わらぬ友情と忠誠を捧げてくれるハッサンに、アミールは弱さゆえの裏切りを働いてしまう。さらに、ソ連のアフガン侵攻によりアミールはハッサンを裏切ったまま離ればなれになる。
 それから実に 30 年の時間が経った後になって、アミールは初めてハッサンのために動き始める。ハッサンに頼り彼に救われるばかりだった弱いアミールが、ハッサンのために自らを費やせるようになるのだ。
 この間には、ひとりの少年が大人になるまでの時間を通して厳しい父との関係の機微が、幸せな恋の物語が、ひとつの国の民族的背景や戦争が、決して感情的にはならず、丁寧に、真摯に描き上げられている。

 人間が自らの弱さに打ちのめされ、傷つき、しかしもう一度立ち上がって向き合い直す。決して奇抜なストーリーではない。けれど、この映画では本筋以外にも一口には語れないような様々な要素が数多く存在している。
 今は失われてしまったかつての平穏なアフガンの姿、ハッサンという無垢な少年の存在、息子と父の関係性、さらには 30 年であまりにその様相を変えてしまったアフガンの歴史と、過去と現在をつなぐ凧合戦の様子。
 そんな多くのテーマと情景がからみ合って、この映画に現実とかわりない厚みを持たせている。

 衝撃的なシーンも心が痛むシーンもある。けれど、そのすべてを心に留めた上で、最後には体をふわりと温かい空気でつつまれたような心地になる。そういう、胸が一杯になるほどの優しい後味を残してくれる映画だった。
 ひとは友のために自らを捧げることができる。ひとはいつでも、自らを救うために生きることができる。
2011.04.10