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『ツリー・オブ・ライフ』
2011 年 アメリカ 138 分
原題:The Tree of Life
監督:テレンス・マリック
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 「さて、えらいものを観てしまった」と思った。
 この映画を「映画を観たい」という気分の時に観に行ってはいけない。また、よほど根の深い会話が出来る相手でない限りひとと観に行くのも危険だと思う。
 私はこれを映画ではなく映像詩だと感じた。ストーリーはわかりづらく、映像は観念的だ。娯楽作でも、いわゆる重厚な名作でもない。また、この映画はキリスト教の概念が基盤にあって、宗教心に抵抗のあるひとには受け入れがたい映画なのではないかとも思う。

 これをひとに薦めるのはとてもじゃないがためらわれる。けれど、観るなら絶対に映画館の大スクリーンで見なければいけない。そんな矛盾をはらむ、非常に扱いづらい作品だ。私がどう感じたかが、ひとがどう感じるかの参考になるとも思えない。

 映画や本や音楽という柵を越えたまだ見ぬ「作品」という何かを感じたいという欲求にとらわれている人になら、退屈というリスクを承知の上で一度映画館まで足を運んでみて欲しいとは思う。
 しかしこれもまた、「この映画を多くのひとに見て欲しい」という名作一般に感じる思いではなく、私個人の「この映画はひとにどう受け止められるのかを知りたい」という欲求に根ざしているに過ぎない。

 横暴で威圧的な父と子供のように無邪気で善良な母のもとで、三人の息子たちが育ってゆく。このあたりは少し『父、帰る』を思い出した。
 父親は決して子供たちを憎んでいるのではない。けれど、示されない愛情は子供たちには伝わらない。その父のいびつさが子供たちの成長に影を落とす。与えられるべきでない圧力を与えられて、少年という樹の育ちはねじれてしまう。

 親子の関係を描く映画は数多いけれど、父の暴力に苦しみながら、同時に言動が父に似ていってしまう長男の姿が印象的だった。親の影を乗り越えてゆく物語が多いなか、『ツリー・オブ・ライフ』では少年は自らのなかにいる父と同じ性質に直面する。
 しかしこれはむしろ、現実の多くの子供たちが感じていることだろう。虐待は受け継がれるというのはよく聞く話だ。そういうありのままの姿が、すさまじいまでの映像美のなかで抽象的に描かれる。

 観念的、宗教的、映像詩、非娯楽作、退屈のリスクと、欠点ばかりをあげつらねてみた。「それでも気になる」「むしろ気になる」というひとなら、もしかしたらこの映画に触れる 140 分を有意義に過ごせるかもしれない。
2011.08.24