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『トゥルー・グリット』
True Grit
制作:2010 年 アメリカ
監督:ジョエル・コーエン / イーサン・コーエン
キャスト:ジェフ・ブリッジス / マット・デイモン / ジョシュ・ブローリン / バリー・ペッパー / ブルース・グリーン / ヘイリー・スタインフェルド
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 アウトローのチェイシーに理不尽な経緯で父を殺されたマティは、仇討ちのために飲んだくれではあるものの腕の立つ保安官コグバーンを雇う。テキサスから別件でチェイシーを追ってきたレンジャーのラ・ボーフも加わり、マティは父の仇を討つため先住民居留地へと踏み行ってゆく。

 面白かった! 楽しんだ! とすかっと笑って言ってしまいたいのだけど、どうも消化不良で座りが悪い。
 14 歳の少女が父の仇討ちのために隻眼の凄腕保安官と若く気障なテキサスレンジャーと共に荒野をゆく。いかにもなストーリーやポスター・広告等から、気軽に楽しめる娯楽映画なのかと思っていた。ところが実際は人物造形が変なところでシリアスに掘り下げていたり単純明快なストーリーが妙にひねった展開に持っていかされたりで、どういう映画として見ればよいのか終始戸惑いを消せなかった。つまらなかったとは言わない。単に私が監督か、もしくは西部劇そのものかと相性が悪かったということなのかもしれない。

 それでも観ていて決して退屈しなかったのはマティの力。彼女の人としての魅力がこの映画を貫いて引っ張っていっている。
 覚悟と真摯さと実行力はいついかなる時も人を動かす。大の男どもに立ち向かって一歩も引かず、臆してもなお唯一の武器である口を閉じないマティ。彼女が持っているのは経験に基づく自信ではなくて単なるくそ度胸なのだけど、それでも決して引き下がらないしぶとく一直線な姿に周囲の人間は感服する。
 無謀でありながら叶わないとは考えないのがマティの強さ。彼女にとって「できるかできないか」は問題ではない。「やると決めている」という事実だけがすべてだ。手段を失ったならまた探すまでだという揺るがなさがある。少女にはタフな現実も、涙を浮かべてもまるごと飲み込んでみせる。
 しかも、彼女は決して鈍感なのではない。死を何とも思わない鈍感さによる無思慮ではなく、生を尊ぶ繊細さによって彼女は仇討ちを決意し銃を手に取るのだ。

 娯楽作なのか重厚な人間ドラマなのか判別つきかねたのは、これがヒーローとヒロインのストーリーではなかったかもしれない。マティを始めとしたこの映画に登場した人々が、設定上は単純明快なキャラクター付けをされていながら立ち居振る舞いは実に生身の人間くさい。
 ストーリーにも、いわゆる「お話」にある用意されたカタルシスや整合性という観客のためにあつらえられたものがない。創作のにおいをぷんぷんさせながら、現実のようにとりとめなく明快な解決がない。監督はこれをどんな映画だと思いながら撮ったのだろう。
2011.04.07