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ピックアップ10冊 2014年
2014年に読んだ本のなかから特に印象的だったものを10冊ピックアップしました。
明確な順位付けをしたわけではありませんが、おおむね上から順により存在の大きい本です。
番号が ピンク のものは小説、 のものは小説以外です。
タイトルから張っているリンクは読後に書いた感想記事に飛びます。

01八本脚の蝶』 二階堂 奥歯
今もウェブに残る二階堂奥歯さんの日記の書籍化。読後しばらくのあいだ頭を占領して離さず、四ヶ月が経った今もまだ私の脳の一部を蝕んでいる。毎年一番に挙げる本は迷うけれど、2014年は他に選びようがなかった。
02『死者の奢り・飼育』 大江 健三郎
耽美でうつくしく、おぞましくも人間的で滑稽。「大江健三郎」という名前を知っているだけで「読む本」の対象には入れていなかった自分の愚かさを笑いつつ、耽溺するように読んだ。
03『海と毒薬』 遠藤 周作
戦中の実話を題材としたという一作。読みやすい文体に引き入れられるがままにタイトル通り毒薬を服んだ。良い小説というのは押しなべて毒であると思うけれど、この毒がどれほどの作用を自身の精神に及ぼすのかわからないまま読了。
04『エレンディラ』 ガルシア=マルケス
訃報に触れて積読から慌てて手に取った。現実と地続きのめくるめく異世界に足を踏み入れて、その目眩に体も精神もなにもかもいっしょくたにぐちゃぐちゃにとろかされた気分。長篇を読まねば、と思う。
05『室内の都市 36の部屋の物語』 海野 弘
「部屋」というのはおかしなもので、閉じた空間であるにもかかわらずそこは宇宙よりも広く全てが存在し得る。魅力的である。溢れ出る知識でもって様々な小説を部屋という視点で行き来する濃密な論述集。
06『朽ちていった命―被曝治療83日間の記録― / 』 NHK「東海村臨界事故」取材班
1999年に起きた東海村臨界事故のルポ。淡々と積み上げられていく事実によって、「被曝で死ぬ」とはどういうことなのかが書かれる。原子力発電を考えるにあたって、必読の書のひとつと思う。
07『臨床哲学講義』 木村 敏
統合失調症、内因性鬱病、躁病を巡りつつ、人間の心に起こる病理について記述する。まったく造詣のない分野につき、著者の論が専門の分野においてどういった位置にあるのかはわからないけれど、個人的にとても興味深くのめり込んで読んだ。
08『ハンナ・アーレント 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者』 矢野 久美子
ユダヤ系の家系に生まれ、ナチスの時代をアメリカに亡命して生き延びたハンナ・アーレントの生涯を網羅的に書いたもの。『人間の条件』を読むにあたって一通りの予備知識をと手に取ったけれど、政治にうとい自分にはこの一冊でもだいぶお腹いっぱいに。
09『飲食男女 おいしい女たち』 久世 光彦
男と女という線引きは唾棄して憚らないが、この世には男と女がいるというのもまた真理だ。随筆のような体裁の小説はどこまでも実話のように思えてならず、結局のところ無縁ではいられない世間の男女というものをなぜかすんなりと胸に受け入れる気分になる。これは女性としてこの世を生きる人の方がきちんと味わえる本だと個人的には思う。
10『萩原朔太郎詩集』 萩原 朔太郎
近代詩人の作品を擬人化したコミック『月に吠えらんねえ』(Amazon.co.jp)を読んで、これで詩集を読まなきゃ嘘だろうと手に取った。朗らかなもののなかにおぞましさを感じる感性がとても鋭い。高村光太郎、室生犀星についで好きな詩人のひとりとなった。

 ツイッターのTLで「その年の振り返りというのは年末にやるものであるらしい」と知ったのでこの記事は2014年末にまとめる気でいたのですが、蓋を開いてみればなんと2月なかばを越えての更新となりました。

 2014年は43冊の本を読みました。毎年飽きもせず「今年は少ない」「来年こそはもっと冊数を」と言っていますが、いい加減腹を括ることにしました。私の読書量の限界はこのあたりです。年間50冊に届いたらいいな、でも無理かな、くらいです(これでも2014年が43冊だったことを思えば希望的観測な面が大きい数字です)。自分はもう「読書家」とは言えない人間なのだなと思います。

 そんななかでも良い本に出会えているのは、社交辞令やおべっかではなく、推薦のページでちらほらと作品をおすすめして下さる方がいるおかげだと思っています。深い感謝を捧げたいと思います。本当にありがとうございました。

 こうして振り返ってみると、2014年は「今更こんな本を」と思うような古く偉大な作品を読む機会の多い年であったように思います。大江健三郎、遠藤周作、ガルシア=マルケス。
 最近頭のなかを巡っているのは、「長く読み継がれている作品はもちろん良作であるのだから漏らさず読みたい」「でもそれでは私の読書が私の読書である必然がなくなるのでは?」という逡巡です。この十年、「なるべく知らない作者を」「なるべく新しい分野を」とすそ野を広げることを第一の旨として本を読んできました。しかしやはり、過去から今に残る作品に触れることで得るものはとても大きい。すそ野を広げることばかりで高峰を見ることをおろそかにしているのでは? という自身への疑問が最近頭をもたげます。
 限られた時間のなかで何を読むのかというのはもう何年も考え続けてきたつもりの問いですが、この問いに対する姿勢を改めて見極めるタイミングが来ているように思います。あるいは、「自分の好きな本を読む」というたった一つの原点に帰るタイミングであるかもしれない、という思いもあります。しかしまだ答えが出ているわけではない(もちろんその「答え」も「現時点での一時的な答え」以上ではありえないわけですが)ので、しばらくはこんなことを考えながら本を読むことになりそうです。
 そんな小難しいこと考える必要あるの? なんて思いもありますが、あるんです。あるから私はこの問いをずっと手放さずに考え続けているのです。

 2014年に読んだ本で、上記十冊以外に印象深かったのは『ペン』(引間 徹)、『あしたから出版社』(島田 潤一郎)、『河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙』(河北新報社)など。
 2015年もまた良い本と出会えるよう、そして何より積読をガツンと減らせるよう、そして「読まない」「(感想を)書かない」自分とどう対峙するかを考える年にしようと考えています。

 ところで、この記事を作成するにあたって2013年の10冊を見返したら、同じ十番目に『萩原朔太郎詩集』(萩原 朔太郎)と『室生犀星詩集』(室生 犀星)が並んだことにちょっとくすりとしました。『月に吠えらんねえ』(Amazon.co.jp)は本当にとても面白いコミックなので、皆様ぜひ。そういえば、コミックの感想も書いてみたいなと考えています。
2015.02.17