メモ
2013.02.01
 上中下巻の三冊を、おのおの三日間ずつで読破した。最近めっきり読書にかける時間の減った私にしては異例の集中力で、淡々と読みふけっていた。三巻とも厚みのある文庫だけど文字のサイズが大きく組み方にも余裕があるので、古めの文庫と同じ組み方にすればさほどの厚さでもないだろうと思う。それでも、このスピードで読み上げたことは近頃の私の読書から考えると非常に珍しい。

 内容に深く言及すると未読の方に申し訳ないので具体的なストーリーについては何も言わないけれど、読後に残った感想としては、特に面白くなかった、と言うしかない。作品が悪いのではなくて、今の私が本に求めているものと正反対の方向の面白さを提供する作品だからだ。
 直近で読んだ本のなかでその素晴らしさを心から讃えたいのはサン=テグジュペリの『夜間飛行』だ。詩文のように美しい文章で綴られる一人の人間の圧倒的な存在。躊躇しながらも一瞬たりと歩みを止めない人間の無謀ながら強い姿に深く打たれる。
 対して、『新世界より』はライトノベル的なキャラクターたちが世界を動かす物語である。微視的な視点に惹かれるのは私の昔から習性だけれど、風呂敷の広さゆえに細かな描写や登場人物たちの心情の流れが大雑把になっている『新世界より』に私の好みがハマることはなかった。

 ハマりこむきっかけを作ってもらえなかった一番の大きなきっかけは、科学的な描写について反駁が思いついてしまったことが大きいだろうと思う。非現実を描く時には、現実世界では 100 %ありえないことでいい、だがその世界なりの法則が確固として存在し、かつそれが守られていなければならない。能力のインフレ、小学生でも思い描けそうな「何でもあり」の舞台設定に、カタルシスを覚えることは難しい。
 『新世界より』がそういった単純な物語であるというのではない。しかしたったひとつの瑕疵はすべてを台無しにしうる。それが非現実世界を舞台にするということだ。
 そのルールが守られなかった時点で、その物語世界に入り込んでいくことは果てしなく難しくなる。どれだけ感情が楽しいと訴えても、理屈の反論を抑えこむことはできない。

 十代の頃に読んでいれば、きちんと面白かっただろうなと思う。