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『28日後...』
 今、私のなかでジェレミー・レナーが熱い。
 『ザ・タウン』で彼の演じた人間に惚れ、つられて彼自身も気にかかる俳優のひとりとなり、その流れで観た『ハート・ロッカー』で彼自身に気持ちがうずいた。ジェレミー・レナーが出るからというだけの理由で『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』を劇場に観に行こうと決め、そのために『ミッション:インポッシブル』シリーズの前 3 作も予習した。自分でもわけがわからないほど、今ジェレミー・レナーというひとりの俳優に入れ込んでいる。

 で、ジェレミー・レナーはこの『28 日後...』の続編である『28 週後...』に出演している。一切食指の動かなかった映画である『28 日後...』を観ることを即決したのはジェレミー・レナーを見るためだ(いかに俳優目当てとはいえシリーズものを途中から観ることはできれば避けたい)。
 つまり『28 日後...』はジェレミー・レナーを見るための前哨戦もいいところで、熱意も何もなく「観た」という既成事実欲しさに再生を始めた映画だった。

 ところがまあ、オープニングシーンからどこか目が離せなくなり、主人公が目覚めた直後の夢の中のようにおぼろげでセンスある映像に「これは思っていたような娯楽パニック映画ではないのでは?」と怪訝な思いが浮かび始め、映画の舞台が(つまりは製作国だろうと予想される国が)イギリスであることに気づき、自分の『28 日後...』に対して抱いていた「ありがちな B 級パニック映画」という評価は決定的に間違っていたことを知る。

 舞台は、人間から理性を剥ぎ取り凶暴性だけが五体を支配する怪物へと変えるウィルスが蔓延した世界。そこで孤独に目を覚ましたジムは、人っ子一人いないロンドンを放浪し、やがてウィルスの “感染者” と遭遇する。それはまだ、これから彼が投げ込まれる地獄の門前でしかない。
 ひとはひとを殺し、生き延びる。絶望的な世界をゆらぎ、ぼやけた、あるいは恐ろしく鮮明な映像で眈々と描き出す。取り立てて目新しいドラマがあるわけではないのだけれど、なにしろ気分の悪いものを露悪的ですらなくこの世に存在する当たり前の事実のように突きつけてくる。

 少なくともこれは、「人間 vs ゾンビ」というわかりやすい型でストーリーを語ってくれる映画ではない。なにしろイギリスといえばジョージ・オーウェルやカズオ・イシグロが生まれた国で、彼の国の一部の作品が語る人間観というのはとかく絶望的で始末が悪い。人間の黒さを描かせたら右に出る作品はないんじゃないかという一品が揃っている。
 『28 日後...』も、決して手放しで褒め上げるような良作ではないけれど、それでもこの世界は一度覗いたらなかなか頭から消えそうにはない。
2002 年 イギリス 114 分
原題:28 Days Later...
監督:ダニー・ボイル
キャスト:キリアン・マーフィ、ナオミ・ハリス、クリストファー・エクルストン、ミーガン・バーンズ、ブレンダン・グリーソン
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2011.12.24