初版:1975 年 5 月 新潮社
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『家族八景』に始まる「七瀬三部作」の二作目である。
前作では住み込みのお手伝いとして働き家々を転々としていた七瀬は、自分の超能力を周囲に知られることを恐れてお手伝い稼業をやめ、旅に出た。その先々で七瀬は予知能力者、念動力者など、幾人もの超能力者と出会うことになる。いくつもの危機に見舞われながら安住の地を求め続ける七瀬は、やがて超能力者の排除をもくろむ組織の存在を知る。
一作目の『家族八景』では、七瀬は物語の語り手であり、傍観者に過ぎなかった。ストーリーの主役は七瀬が観察する数々の一般人たちだった。それが、『七瀬ふたたび』では七瀬自身が話の中心となり、一般人は関わることのない超能力者たちの世界が舞台になる。
前作が、人間の醜悪な感情を描写しながら外面的には基本的に平穏な日常を保っていたのに対して、今作ではうって変わって激しいバトルものの様相を呈してくる。冒険活劇調なストーリーと描写、終盤になって畳み掛けるように七瀬を襲うやるせない痛苦と試練。
このやるせない痛みは、一般人が大勢を占めるこの世界に生まれてきた少数者である超能力者だけが背負う苦しみだ。埋められることのない孤独と、存在しているからというただ一点の理由で理不尽と排除されることへの怒りだ。
ただ存在することすらも許されない超能力者という生物が、人間の社会でいかに生き残るか。非現実の存在である超能力者の追い詰められた心情を、リアリティをもって描いた小説だ。
この小説において超能力者たちは「一般人に優る万能の存在」などではなく、排斥されるべき異物として扱われる。エンターテインメント性を保ちながら決して重苦しくなり過ぎず、しかし異端として追われる超能力者たちの悲しみを描き切っている。