初版:1998 年 5 月 コバルト文庫
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幼稚舎から大学まで一貫教育のお嬢さま学校、リリアン女学園。先輩が後輩と姉妹〈スール〉になり強く結びつく制度のあるリリアン女学園で、高等部一年の福沢祐巳はある日唐突に憧れの先輩である『紅薔薇のつぼみ』に妹になるように申し込まれた。
女学園という少し特殊な環境の舞台の上で、平凡な一生徒であった祐巳が生徒会という殿上人の世界に巻き込まれてゆく。
途中までは、祐巳以外の登場人物を全員男の子にすれば立派に少女小説として立派に通用しそうなエピソードが続く。けれどやっぱりこれは、女学園という環境でこそ書くことの出来る、まだ幼く自分自身にも振り回される思春期の女の子の物語なのだと思う。
前半はどちらかとコミカルな感じでするすると読み進めていたのだけど、話が進むにつれて姿を現してきた『紅薔薇のつぼみ』である祥子の抱える根は平凡な、だからこそ切なさの募る悩みと苦しみに思いがけず気持ちが揺らされた。祥子がただ一回弱音を吐く一連のシーンはとても印象的で心に残る。祥子の弱さと強さ、そしてそれを見届ける祐巳の情景がはっきりと目に浮かぶ描写だ。
誰の目も引きつける空気を持つ祥子と誰の目にも留まらない平凡な祐巳という取り合わせははためには奇妙にも映りそうだけど、そういうふたりだからこそ埋め合わせてゆけるものがあるはず。
悩みながら、その悩みを周りに助けられながら自分の足で乗り越えてゆく、そういうありふれてはいるけれど誰にとっても間違いなく大切な、成長の物語だと思う。