初版:1999 年 5 月 コバルト文庫
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二学期の期末試験真っ只中に、祐巳は白薔薇さまに関する妙なうわさを耳にする。『いばらの森』というタイトルの少女小説の作者が白薔薇さまではないか、というそのうわさから、事態は白薔薇さまの一年前の過去にまで飛んでゆく。
表題作「いばらの森」と短編「白き花びら」の二本立て。分量としては「いばらの森」の方が長いのだけど、「白き花びら」の存在感が大きくて「いばらの森」は「白き花びら」のための前振りのようにすら見える。紅白黄の三薔薇のうちシリーズ一巻、二巻はそれぞれ紅、黄に焦点を置いて、今回は白。
飄々としておちゃらけたイメージのある白薔薇さまは、かつては人を寄せつけない性格だったという。「白き花びら」は、そんな彼女が変わる転機となった出来事を描いた、激しく苦しいお話だ。
「いばらの森」のお話から一年前、まだ祐巳がリリアン女学園高等部におらず白薔薇さまは白薔薇のつぼみだったころ、彼女は誰よりも愛した少女との別離を経験する。白薔薇さまの一人称視点から回想形式で語られる「白き花びら」はその少女との出会いから別れまでを、足早に、率直な言葉で語っている。
正直に言って、私は白薔薇のつぼみであった頃の聖の苦しみはわからない。だから感情移入などしなかったし悲しいとも思わなかった。むしろ、正真正銘愛せる相手と心から通じ合えた彼女は幸福だなと感じた。さらに、彼女には何もかも認めた上で包んでくれる先代の白薔薇さまと、真剣に心配し心を配ってくれる友人の紅薔薇のつぼみ(現紅薔薇さま)がいる。うらやましいほどいたれり尽くせりな環境だ。
前巻『黄薔薇革命』で、自らの意志で新しい世界を切り開いていった黄薔薇のつぼみの妹・由乃とは、対照的なひとだなと思う。