メモ
2008.10.21
 ずいぶん間があいてしまいました。
 おすすめいただいていた「闇の展覧会―霧」を昨日読了しました。五つの作品から成るアンソロジーですが、ホラー小説はまったくの門外漢でスティーヴン・キング以外は知らない作家ばかりでした。そのキングの「霧」が半分以上を占めていて、一番読み応えがあったのも「霧」です。
 ほかに特に印象に残ったのは、「三六年の最高水位点」でしょうか。ロルという女性がとても好みで、その愛情深さが惹かれた理由です。

 キングは「スタンド・バイ・ミー」しか読んだことがなかったのですが、やはり人物活写のうまさは群を抜いています。ホラー小説やSF小説というのはいかに奇抜で斬新な設定を考えつくかに作品の真価が左右されるのではないかと思っているのですが、キングに関してはそれが当てはまりません。
 「見たこともないような怪物が人々を襲う」という陳腐な設定にもかかわらず、巧みな心理描写でぐいぐいと読み進ませて読者を引きずりこむパワーがあります。むしろありきたりな設定がほどこされた世界だからこそ、キングの人物描写力が活きるのかもしれません。人間の感情のひだをとらえて描写できる能力を持つキングにとっては、物語の舞台はどこでもいいのかもしれないとすら思えてきます。
 キングの作品は、機会を見つけてほかにも読んでみたいと思いました。

 今は中山可穂さんの「弱法師(よろぼし)」を読んでいます。中山さんは以前からとても好きな作家ですが、「弱法師」では今までの作品にあった痛ましいほどに生々しく、そして気迫のこもった性描写が消えて、それよりも先の世界へぐんと広がっているような気がします。まっすぐに描かれるセックス描写は中山さんの特徴のひとつだったと思っていますが、そこを抜けさらに広がった視野で愛を書いていることが、一ファンとしてうれしくてたまりません。
 今まではビアンの女性の恋と愛と性だけを書くことに全力をそそいでいた、そのために精魂使い果たしていた中山さんが、「弱法師」ではビアンの女性を取り巻くほかのさまざまなものにまで目を向けているように感じられます。

 三編収録されているうちの三編目を読み出したところですが、二編目の「卒塔婆小町」に心を大きく揺り動かされました。今の自分に重なる部分が多かったからというのが、その大きな理由です。
 柳原百合子という女性を、私はとても近しく感じています。彼女が周囲の男たちにつらぬき通した態度、深町の持つ純愛に復讐したいと思ったその衝動、社長との口論で感じた悲しみ、すべてに対して痛いほど共鳴しながら読んでいました。

 これまでも好きな作家のひとりではありましたが今改めて、特別な作家だと痛感しています。
2008.10.06
 おすすめいただいていた「おもいでエマノン」のシリーズを、3冊目の「かりそめエマノン」まで読みました。4冊目の「まろうどエマノン」が残念ながら地域の図書館に蔵書がなく、古本でも見つからないので読むことができなさそうです。

 SFは普段読まないジャンルなのですが、あまり抵抗なく読んでしまいました。それぞれのエピソードのなかに登場する人々がそれぞれに懸命で、それを見るエマノンの(もしかしたらひいては作者の)距離があるなかでそれでも見守ろうとする温かさが、どのエピソードにも漂っていたように思います。だから、それほどジャンルを気にせず読めたのかもしれません。
 個人的には、「さすらいエマノン」に収録されていた「さすらいビヒモス」が不思議なほど印象的です。種のなかで最後の一匹になるということ。途方もないその現実を目の前にあることとしてただ受け入れてしまうという生物としての冷静な強さは、象という思慮深い生き物だから現実感が生まれたのかなと思います。

 機会があれば、「まろうどエマノン」も読んでみたいなと思います。古本を探す以外の方法が今のところなさそうなのが残念ですが…。
 おすすめ、ありがとうございました。

 そして、推薦で新たに「闇の展覧会」をおすすめいただき、ありがとうございます。映画「ミスト」の原作が収録されているんですね。スティーブン・キングは高校時代に「スタンド・バイ・ミー」を読んで以来です。もちろんほかの作者のものも含めて、楽しもうと思います。

 今はyom yomのvol. 8を読んでいます。浅田次郎さんの「読むこと書くこと」というエッセイに共感です。いくつになっても、こうやって本を読んでいたいなあとしみじみしました。
2008.09.27
 「スカイ・イクリプス」を読了したあとに読み出していた「わたしを離さないで」を、昨日夜遅くに読了しました。おすすめ、ありがとうございました。

 主人公キャシーが過去を振り返るかたちで綴られてゆく、彼女と彼女の周囲の人々の生活、人生、日々。解説でも触れられている通り、予備知識がなければないほどこの本を読むことは素晴らしい読書になるだろう。そんな小説であるこの本について詳しい感想を語ることはできない。それは、永遠に心に残っていくだろうと思えるほどの大きな存在感と重みを与えてくれたこの小説に対する裏切り行為にあたると思う。
 キャシーたちの日々やその存在そのものは、読み手によっていかようにもその姿を変えるのではないか。そして、どのように彼女らを受け止めるかは、読み手その人の思想、感情、考え、生き方、その他その人らしさと呼べるもののすべてを反映するのではないかと思える。読み終えることでは終わらない物語が、この本のなかにはつまっている。ページを閉じたとき、きっと読み手のなかではなにかが始まる。
 できればなにも考えず、ただ手にとってみて欲しい。ひたすら読み進めてみて欲しい。それをお願いすることしか、この本が与えてくれたものに対する恩返しの方法が思いつかない。

 沙々雪を運営していて推薦にて本をおすすめ頂くたびにうれしくなりますが、やはりそのなかでも、この物語に出会うという幸運を与えていただいたことにただただ感謝の思いでいっぱいになるという本があるます。「わたしを離さないで」はそういう本の一冊でした。おすすめ、心からありがとうございました。

 今は、おなじくおすすめ頂いているエマノンシリーズを読んでいます。絶版本のようで、図書館で借りてきました。シリーズ4冊のうち残念ながら3冊までしか蔵書がなかったのですが、楽しみながら読もうと思います。
 エマノンシリーズを読み終えたら、yom yomの最新号を読むつもりでいます。
2008.09.17
 「スカイ・イクリプス」を読了しました。
 しばらく前に観た映画「スカイ・クロラ」のエンディングに納得がいかなくて、もしかしたらこの短編集まで読んで初めて納得がいくつくりになっているのかも、と思っていたのですがそういうことではなかったようです。となると、やはり個人的には映画は受け付けないものになってしまいました。

 8本の短編、うち3本が書き下ろしです。「スカイ・クロラ」シリーズのファンの方なら迷わず読むでしょうし、「スカイ・クロラ」を読んだことがない方には縁のない本だと思います。なのでこの本自体の感想を多く書くつもりはないのですが、なんにしろ、ここまではっきりと救いが明示されるとは思っていませんでした。少なくとも私は、解決ではなくとも救いだと感じています。彼らにとっての。

 15日に読了した「音楽の基礎」ですが、全体はあくまでも理論書の体ですがそこかしこに音楽に対する姿勢の話が出てきます。特に、最後の2ページほどは私にとってとても大きな示唆になりました。読んでよかったと思います。音楽に対する姿勢で迷ったときには、またこの部分を読み返すかもしれません。
2008.09.13
 今は「音楽の基礎」という新書を読んでいます。中学生までエレクトーンを習っていたくせに私はとても音感のない人間で、特に音楽に造詣が深いわけでもなく、必死で理解しようと四苦八苦しながら読んでいます。可能性は低いのですが、もしかしたら来年の春から始まる卒論で使うかもしれないので。
 息抜き用にしようかなと思って「鉄塔 武蔵野線」という小説もブックカバーをかけて読める状態にしてありますが、やっぱり私は並行読みは苦手なようです。結局「音楽の基礎」ばかり読んでいます。

 昨日からルミネの10%オフセールが始まったので本をまとめ買いしてきました。おすすめいただいている「わたしを離さないで」は見つかったのですが「おもいでエマノン」は在庫なしで買えないままです。15日に別のルミネがある駅まで出かける用があるのでそこで探そうと思います。
 ただ、「音楽の基礎」を読み終わったら昨日買った「スカイ・イクリプス」を先に読んでしまいそうです。ずっと読みたくて楽しみにしていた「スカイ・クロラ」シリーズなので。気になる本がある状態で読むよりも、落ち着いて集中して読みたいと思います。