ずいぶん間があいてしまいました。
おすすめいただいていた「闇の展覧会―霧」を昨日読了しました。五つの作品から成るアンソロジーですが、ホラー小説はまったくの門外漢でスティーヴン・キング以外は知らない作家ばかりでした。そのキングの「霧」が半分以上を占めていて、一番読み応えがあったのも「霧」です。
ほかに特に印象に残ったのは、「三六年の最高水位点」でしょうか。ロルという女性がとても好みで、その愛情深さが惹かれた理由です。
キングは「スタンド・バイ・ミー」しか読んだことがなかったのですが、やはり人物活写のうまさは群を抜いています。ホラー小説やSF小説というのはいかに奇抜で斬新な設定を考えつくかに作品の真価が左右されるのではないかと思っているのですが、キングに関してはそれが当てはまりません。
「見たこともないような怪物が人々を襲う」という陳腐な設定にもかかわらず、巧みな心理描写でぐいぐいと読み進ませて読者を引きずりこむパワーがあります。むしろありきたりな設定がほどこされた世界だからこそ、キングの人物描写力が活きるのかもしれません。人間の感情のひだをとらえて描写できる能力を持つキングにとっては、物語の舞台はどこでもいいのかもしれないとすら思えてきます。
キングの作品は、機会を見つけてほかにも読んでみたいと思いました。
今は中山可穂さんの「弱法師(よろぼし)」を読んでいます。中山さんは以前からとても好きな作家ですが、「弱法師」では今までの作品にあった痛ましいほどに生々しく、そして気迫のこもった性描写が消えて、それよりも先の世界へぐんと広がっているような気がします。まっすぐに描かれるセックス描写は中山さんの特徴のひとつだったと思っていますが、そこを抜けさらに広がった視野で愛を書いていることが、一ファンとしてうれしくてたまりません。
今まではビアンの女性の恋と愛と性だけを書くことに全力をそそいでいた、そのために精魂使い果たしていた中山さんが、「弱法師」ではビアンの女性を取り巻くほかのさまざまなものにまで目を向けているように感じられます。
三編収録されているうちの三編目を読み出したところですが、二編目の「卒塔婆小町」に心を大きく揺り動かされました。今の自分に重なる部分が多かったからというのが、その大きな理由です。
柳原百合子という女性を、私はとても近しく感じています。彼女が周囲の男たちにつらぬき通した態度、深町の持つ純愛に復讐したいと思ったその衝動、社長との口論で感じた悲しみ、すべてに対して痛いほど共鳴しながら読んでいました。
これまでも好きな作家のひとりではありましたが今改めて、特別な作家だと痛感しています。
おすすめいただいていた「闇の展覧会―霧」を昨日読了しました。五つの作品から成るアンソロジーですが、ホラー小説はまったくの門外漢でスティーヴン・キング以外は知らない作家ばかりでした。そのキングの「霧」が半分以上を占めていて、一番読み応えがあったのも「霧」です。
ほかに特に印象に残ったのは、「三六年の最高水位点」でしょうか。ロルという女性がとても好みで、その愛情深さが惹かれた理由です。
キングは「スタンド・バイ・ミー」しか読んだことがなかったのですが、やはり人物活写のうまさは群を抜いています。ホラー小説やSF小説というのはいかに奇抜で斬新な設定を考えつくかに作品の真価が左右されるのではないかと思っているのですが、キングに関してはそれが当てはまりません。
「見たこともないような怪物が人々を襲う」という陳腐な設定にもかかわらず、巧みな心理描写でぐいぐいと読み進ませて読者を引きずりこむパワーがあります。むしろありきたりな設定がほどこされた世界だからこそ、キングの人物描写力が活きるのかもしれません。人間の感情のひだをとらえて描写できる能力を持つキングにとっては、物語の舞台はどこでもいいのかもしれないとすら思えてきます。
キングの作品は、機会を見つけてほかにも読んでみたいと思いました。
今は中山可穂さんの「弱法師(よろぼし)」を読んでいます。中山さんは以前からとても好きな作家ですが、「弱法師」では今までの作品にあった痛ましいほどに生々しく、そして気迫のこもった性描写が消えて、それよりも先の世界へぐんと広がっているような気がします。まっすぐに描かれるセックス描写は中山さんの特徴のひとつだったと思っていますが、そこを抜けさらに広がった視野で愛を書いていることが、一ファンとしてうれしくてたまりません。
今まではビアンの女性の恋と愛と性だけを書くことに全力をそそいでいた、そのために精魂使い果たしていた中山さんが、「弱法師」ではビアンの女性を取り巻くほかのさまざまなものにまで目を向けているように感じられます。
三編収録されているうちの三編目を読み出したところですが、二編目の「卒塔婆小町」に心を大きく揺り動かされました。今の自分に重なる部分が多かったからというのが、その大きな理由です。
柳原百合子という女性を、私はとても近しく感じています。彼女が周囲の男たちにつらぬき通した態度、深町の持つ純愛に復讐したいと思ったその衝動、社長との口論で感じた悲しみ、すべてに対して痛いほど共鳴しながら読んでいました。
これまでも好きな作家のひとりではありましたが今改めて、特別な作家だと痛感しています。