メモ
2007.05.09
「雪の断章」をおすすめいただき、ありがとうございます。じつはこの本、大好きなイラストサイトの管理人さんがずっと昔に紹介しているのを見て、気になっていた本でした。
 当時は、絶版になっているし時間もないしで読まずじまいだったのですが、調べてみたら復刊されているんですね。地元の図書館に蔵書があるのですが貸し出し中だったので、予約してきました。借りられ次第、読んでみます。
2007.05.03
「猫に満ちる日」を読了しました。おすすめ、ありがとうございました。
 “良い本”というのは、とにかく面白くてぐいぐい読ませてくれる本と、決して押し付けがましくならず手に取りたいときにだけ読ませてくれる本があると思っています。「猫に満ちる日」は、間違いなく後者でした。

 男とは暮らせない、“女”としてはきっと不完全な女性が猫とふたりきりで暮らす、その様を綴った物語。なにがあるわけでもない、始まるわけでもないふたりの日々を、残しておくためだけに書かれた小説。だから、この本は過不足なくただ読者のそばに居てくれる。なにかを無理に伝えようとも、納得させようともしない。そんな風に在るこの小説は、猫そのもののようだ。しなやかで、寂しくも切なくもあるけれど、絶望ではない。柔らかさを失わない猫の体のように、人が隣に寄り添うことを許してくれる。
2007.04.25
 「海の底」、きのう一日を丸々つかって読みきりました。この一気読みさせてくれるスピード感と読みやすさ、そして吸引力はさすがです。有川さんの小説は「図書館戦争」、「図書館内乱」、「レインツリーの国」と読んだことがあるのですが、「海の底」も含めていずれ劣らぬ良作ばかり。

 桜祭りでにぎわう横須賀に、人間を捕食する巨大エビが襲来する。荒唐無稽な設定ですが、その上で広がる展開や人物像はリアルそのもの。図書館戦争シリーズもそうですが、この人はでたらめのような世界観のなかの日常を描くのがなんて巧いんでしょう。登場するひとりひとりが魅力的で、その人物造形にはうなってばかり。ベタな展開も、ちょっとあざといせりふまわしもありますが、そんなことはかすんでしまうほどに直球でおもしろい。

 そして、ここがまた重要だと思うのですが、単なる娯楽小説では終わらない。突然の非常識自体が起こったとき、日本はどのような対処できるのか? そんな、現実的でシビアな疑問を、読み終えたときに必ず抱かされます。「海の底」にしろ図書館戦争シリーズにしろ、現代の日本の行く末・あり方という目を背けられない問題が内包されている。

 小説としての単純な面白さとあいまって、二重三重に得るものがある小説です。有川さんのほかの本も、ぜひ読んでみようと思います。しばらくは買いためた本があるので、それをすべて読み終わったあとにでも。
2007.04.23
 梨木香歩さんの「家守綺譚」を読んでいました。そして、今は「yom yom」のVol.1に載っていた「家守綺譚」の読み切りを読んでいます。本編を読んでからにしようと思って、ずっと読まずにとっておいたのです。

 さらっとした肌触りのいい小説で、無理なくすんなりと読めてしまいました。私にとって梨木さんは「西の魔女が死んだ」や「裏庭」のずっしりとした、決して不快ではないものの一種の重苦しさのある小説のイメージが強く、この適度な軽妙さにはすこしびっくりしました。幅の広い作家だなあと思います。

 さて、そして「海の底」と「猫に満ちる日」をそれぞれおすすめいただき、ありがとうございます。「海の底」の方は、今日さっそく買ってきたので、明日から読み始めようと思います。「猫に満ちる日」は地元の図書館に蔵書があるようなので、タイミングを見て借りてくる予定です。
2007.04.20
 「草の竪琴」を読了しました。おすすめ、ありがとうございます。

 著されているのは心細くなるほどに繊細な人々で、ただじっと読み進めていました。美しい自然の風景が詩的な文体でつづられる中、社会に対して虚像を被ることをやめた人々が少年の視点を通して語られます。虚像を被ることをやめるというのは、人から求められる自分を演じるのをやめるということ。それは必ず衝突を引き起こします。
 人と世間との衝突が起こり、そして“普通”の枠からはずれた者同士がより添い、やがて社会自体とも折り合いをつけてゆく。その一つのできごとが、とても丹念な筆で書かれています。

 登場する人々は、それぞれに抱えるものがある。それは一概にやっかいごとや問題ではなく、愛情であったり、願いであったりする。それは、それぞれにとっては決して特別なものでも異常なものでもないのに、世間がそれを受け入れてくれないがため、ありのままでいられる場所がないがために、苦しんでいる。
 そんな人々が、樹の上の家で互いにより添って暮らそうとする姿は、切なくも哀しくもありますが、やはり幸せのひとつの形だと思うのです。だからこそ、この小説は全体にとても優しい。ひとときのことであったとしても、安らぐ場所を得たことは、必ずそれぞれにとって救いになるはずです。
 語り手であった少年が旅立っていくシーンで終わるこの小説は、決して安直ではない、厳しくも優しい希望を示してくれているように思うのです。