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ピックアップ10冊 2008年
2008 年に読んだ本のなかから特に印象的だったものを 10 冊ピックアップしてみました。
明確な順位をつけたわけではありませんが、ざっくりと上の方がより面白かったものです。
番号が ピンクのものは小説緑のものは小説以外 です。

01春琴抄』 谷崎 潤一郎
美しく驕慢な春琴と、彼女に自分自身を捧げることを至福とする佐助。私は谷崎の小説が好きだけど、なかでも『春琴抄』に対する愛は群を抜いている。ふたりの傲慢さと心弱さが渦を巻き複雑に絡み合うさまには目眩すら覚える。
02わたしを離さないで』 カズオ・イシグロ
生まれ育った施設での思い出を語る主人公と、彼女の仲間たちのこと。読み終えた時に深く胸を襲った感慨は今も忘れられない。何も知らない状態が一番この本を楽しめる。どうぞ一切の予備知識を入れず、ただ読んでみて欲しい。
03弱法師』 中山 可穂
三本の短編が収録されている。若手作家と墓地に居座る老婆が言葉を交わす「卒塔婆小町」が好き。心臓が痛くなり胸がひりつくような、重く狂気をはらんだ、世界の縁からすべり落ちてしまった人々のあまりに純真な恋物語。
04ぼくのキャノン』 池上 永一
沖縄の村で育つ三人の子供たちが島を守るために奮戦する。読み始めた時は漫画のような設定に鼻白んだものだけど、読み終えてみれば信じられないくらい愛しく感じる一冊になっていた。理屈抜きに、とにかく好きだと思える本。
05つむじ風食堂の夜』 吉田 篤弘
月船町に暮らす、少し不思議な人々が描かれる短編集。豊かなぬくもりが本を持った両手から伝わってくるような、読んでいることそのものが心地良い小説だった。安心してひとに薦められる一冊。
06ノスタルギガンテス』 寮 美千子
ひとりの少年の宝物が巻き起こした、世界に対する変革とその結末。切ない話やむなしい話は数あれど、純粋な空虚だけが読後に残ったというのはこの一冊だけだ。透明なアクリル板のような、硬質で無機的な小説だったと思う。
07鉄塔家族』 佐伯 一麦
鉄塔の根元で暮らす様々な人々が丹念に描かれる群像小説。鳥や草花の名前が数多く出てきて、これを読んでから鳥の鳴き声に耳をすますようになった。他にも、生活のそこここでふと思い出すエピソードが多い生活感のある小説。
08『武装解除―紛争屋が見た世界』 伊勢崎 賢治
東チモール、シエラレオネ、アフガニスタンと、いくつもの地で紛争直後に行われる武装解除に携わった著者による新書。憲法第九条への言及もある。実際にその場に立ちその目で見てきた人物による描写には説得力がある。
09『対象喪失 悲しむということ』 小此木 啓吾
家族や恋人を失恋や死別で失った時は自分を誤魔化さずきちんと悲しまないと後々自身が歪んでしまうよ、ということを、フロイトの学説を基本に心の機構を示すことで解説してゆく。とても興味深かったし、納得できる話だった。
10鉄塔 武蔵野線』 銀林 みのる
見晴は年下のアキラを引き連れて鉄塔を辿る冒険をする。子供の視点で見る鉄塔はたまらなく魅惑的で、鉄塔を見かけるたび見晴を思い出すようになった。もの凄く面白かったというのじゃないんだけど、どうにも忘れ難い一冊。
2011.06.01