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ピックアップ10本 2012年
2012 年に観た映画のなかから特に印象的だったものを 10 本ピックアップしてみました。
明確な順位をつけたわけではありませんが、ざっくりと上の方がより面白かったものです。

01レオポルド・ブルームへの手紙
学校の授業の一環で囚人に手紙を書く少年、返信を綴る囚人。自分には何一つ非のないまま、生そのものを否定されたふたりが交錯する。辛く、救いのない生のなかで、それでも自分が生きられる道を探し続けたひとの物語。この映画から得られるものはとても複雑で、自分が何を感じ取ったのかまだわからないままでいる。
02私が、生きる肌
整形外科医の男が人ひとりを監禁し、亡き妻そっくりに整形する。狂気というのは興味深いモチーフだけれど、この映画はそのひとつの形を完璧に描写している。濃密で、曲がりくねり、決して後戻りのできない道をひたひたと進む物語に、強く息を詰めてしまう。
03『最強のふたり』
首から下が麻痺した富豪と、彼の介護士募集の面接に「就職活動をしたという事実をが欲しいから不採用通知をくれ」とやって来た黒人青年。芸術を愛する富豪と前科者の青年という生まれ育った世界のまったく違うふたりが、ぶつかり合いながらもやがて笑い合うようになる。心地良い爽快さの残る一作。
04ドライヴ
自動車の修理工場で働きながら、夜には強盗の逃がし屋として犯罪に手を染めている一人の“ドライバー”。乾燥した映像と陰翳で、寡黙な青年を中心に据えたせりふの少ない映画ながら確固たる空間を作り出している。名前すらない主人公青年のまとう静寂が脳裏を離れない。
05アニマル・キングダム
母の死によって祖母の家に身を寄せた少年が、犯罪一家である祖母と伯父たちに引き寄せられ、抵抗もないままに堕してゆく。少年の無感動さと諦めの深さは哀れをと通り越しておぞましさをもよおさせる。徹頭徹尾、獣じみた人々が互いを食らう映画だった。
06『THE GREY 凍える太陽』
アラスカの石油掘削現場で作業員を狼から守る職に就くオットウェイ。休暇に向かう飛行機が雪原に墜落した時から、狼の群れと生き残った人間達の戦いが始まる。生き残った面々はそれぞれに個性があるが、なかでも幸福とは言いがたい過去を持つオットウェイの存在感は抜きん出ている。死に切れず「生きて来てしまった」人間が「生きること」を選択する。
07『スタンドアップ』
全米初のセクシャル・ハラスメント訴訟にまつわる実話を映画化。炭鉱で働く女性を描く。歯を食いしばるような嫌がらせを受けるなか、同じ女性労働者からも応援を受けられず、それでも屈しない主人公の姿は強い。その強さは何物からも見捨てられば所から育ってきたもので、なおさらに感服する。
08ロード・オブ・ドッグタウン
スケートボードの世界を塗り替えた実在の少年たち三人の物語。サーフィンが好きでスケボーが好きで、その好きなことだけをして毎日を夏休みのように過ごす。子供と大人の間で苦しみ、叫び、それでも三人はいつまでも滑り続ける。嘘のような「生涯青春」を本当に実現しちゃった姿がまばゆくてかっこいい。
09マルドゥック・スクランブル 排気
三部作完結作。2011 年のピックアップ 10 本に「圧縮」を挙げたけれど、それとはまったく違う意味合いで今回この「排気」を挙げる。世界中から虐げられながら、最後の一線で決して折れず、さらには他者を虐げない道を見つけ出そうとした少女バロットに心の底からの敬愛を捧げたい。
10ズーランダー
ヘビーな映画を多く挙げたなか、最後の一本にどうしてもこれを選んでしまった。男性モデル界を舞台に、揶揄と誇張のコメディがノンストップで展開される。普段コメディを観ないから求めるハードルが低いのかもしれないけれど、終始にやにやしながら観ていた。たまにはコメディも観るものだ、と肌で実感。


 2012 年は 43 本の映画を観ました。2011 年の 69 本から比べるとがくっと減りましたが、さほど頑張って「観よう!」と思っていた年ではないのでこんなものかなと。二年通して本数を気にかけてみた結果として、毎年コンスタンスに 50〜60 本くらい観られるといいバランスかな、と思います。

 昨年「ジェレミー・レナーにハマっている」という話をしましたが、今も変わらない熱で続行中です。なにしろここで選んだ 10 本のうち、『スタンドアップ』と『ロード・オブ・ドッグタウン』の二本はジェレミー・レナーの出演を理由に観た映画です。最近はアクション大作ばかりで面白くないですが、いつかまたいい映画に出てくれれば、と期待しています。

 『レ・ミゼラブル』を 10 作に入れるかずいぶん迷ったのですが、この映画は「映画」としてよかったのでなく『レ・ミゼラブル』の「世界」に一歩踏み込むことができた喜びが深かったのだなと思い、今回は外しておきました。ミュージカル、原作と、広がる世界にこれからゆっくりと踏み入って行きたいと思う作品です。

 当たり前なんですが、最近「観られる映画の本数には上限がある」ということをなおさらに体感しています。なるべくいい映画だけを観てゆけるように自分の嗅覚を常に研ぎ澄ませていたいということが、2013 年の目標です。
2013.01.05