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ピックアップ10冊 2011年
2011 年に読んだ本のなかから特に印象的だったものを 10 冊ピックアップしてみました。
明確な順位をつけたわけではありませんが、ざっくりと上の方がより面白かったものです。
番号が ピンク のものは小説、 のものは小説以外です。

01フェルマーの最終定理』 サイモン・シン
かの「フェルマーの最終定理」が証明されるまでを丁寧に追った名ノンフィクション。純粋な感動の涙を流すという稀有な経験をさせてもらった。数学は嫌いだからなんて敬遠されないように願ってやまない。一言の文句もない素晴らしい感動と読み応え。
02ジェノサイド』 高野 和明
世界を結び、生物を結び、時間を結ぶ、あまりにも壮大な生粋のエンターテインメント。作品世界に沈み込むように読ませてもらった。高野さんは本当に希望描写の名手だと思う。多くの人に指摘されている瑕疵にはあえて目をつむっておく。
03イッツ・オンリー・トーク』 絲山 秋子
駄目な女の、駄目な日常。「所詮ムダ話さ」を笑えてしまう程度のくだらない出来事を、小さく切り取ってはつなげて出来たムダ話の鎖。話の筋がどうとか、人物造形がどうとかでなく、あまりに私と似た主人公にいやおうなくしみじみとしてしまった。
04愛の試み』 福永 武彦
福永武彦さんの愛というものに対する観念が、誠実に、真摯に話されるエッセイ集。愛というのは地上に人類が二人以上存在する限りきっと永遠の思考のテーマで在り続けるもので、そのぶん人によって愛の解釈は違うけれど、ここに書かれているものは私の考えと重なる部分が多い。
05草の花』 福永 武彦
愛というものについて私と非常に近い捉え方をしている福永さんが書いた崇高で愚かな恋愛の話。現実に自分の周りにいる人間よりも自分の精神が描く理想像を優先させる人間が本当の愛など知ることができるはずもなく、人々を傷つけてばかりゆく姿が腹立たしい。なのに、抗えない説得力もある。私には福永さんの文体が肌に合う。
06ピエール・リヴィエール 殺人・狂気・エクリチュール』 ミシェル・フーコー 編著
19世紀フランスの農村で実の母、妹、弟を惨殺したピエール・リヴィエール。この本はミシェル・フーコーが彼を題材に行った講義の記録。ミシェル・フーコーとその聴講生らによる難解な論考を理解することはできなかったけれど、偏執的かつうつくしいピエール・リヴィエール本人による手記がとにかく印象的。
07新装版 苦海浄土 わが水俣病』 石牟礼 道子
水俣病の発生した地に生まれ育った著者による小説。ルポルタージュではなく、著者の伝えたかった水俣病の姿が切々と描かれている。歴史としての水俣病でなく、水俣病という病に関わった人々の姿に興味があるというひとに。
08グッド・バイ』 太宰 治
いくつか読んできた太宰作品のなかで、最も好きだった「フォスフォレッセンス」という掌編が収録されている。夢と現実があり、それが儚く入り交じる。限りない透明感で描かれる夢の世界がどうしようもなくうつくしくて、息を忘れて読み入る小説だった。
09檸檬』 梶井 基次郎
こちらもお気に入りの一篇「K の昇天 ――あるいは K の溺死」が収録された短篇集。生と死という生々しいものをテーマに置きながら幻想感が消えないのは、ある意味不健全だと思う。けれど、それがこの掌編の魅力でもある。あまりにうつくしい、あるいはあまりに愚かな死の情景。
10異端の数ゼロ 数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念』 チャールズ・サイフェ
ゼロの誕生からゼロが生み出す無限に至るまで、ゼロという数の歴史を解説した一冊。『フェルマーの最終定理』は数学好きでないひとにも読んでみて欲しい一冊だけれど、こちらは数学が、あるいは数という概念が好きなひとこそが楽しめる本だと思う。


 2011 年に読んだ本の冊数は計 41 冊でした(読書記録 2011 年)。なんともまあ、呆れを通り越して恐ろしくなるような少ない数字です。

 振り返ってみると、これといった指針のないまま目につくままに読んできた印象です。
 現代小説よりもノンフィクションや文豪作品が多めなのはここ数年続く傾向ですが、今年のそれは読んで来なかったジャンルの新規開拓というよりも現代小説からの逃げの姿勢だったように思います。2012 年は少し方向を切り替えて、現代小説もまたよく読むようにしたいなと。
 あと、2012 年は古い積読本を切り崩す年にしようと思っています。2010 年以前に買った本はすべて読めたらいいなと思っていますが、実際のところどうなるかはわかりません。冊数的な目標としては、80 冊くらいでしょうか。

 上に挙げた 10 冊以外に気になった本は、『荒野へ』(ジョン・クラカワー)や『暗夜行路』(志賀 直哉)あたり。
 『荒野へ』は溺愛する映画『イントゥ・ザ・ワイルド』の原作ということで作中のほとんどのエピソードを知っている状態だったのでのんびりと読んだのですが、逆に映画では一切語られなかった著者の逸話などもあり、映画よりもより普遍的な「青年が荒野というものへ懸ける思い」というものに触れられる一冊だと感じました。
 『暗夜行路』は、話の筋や登場する人物に特別ななにがしかを感じるような作品ではなかったんですが、文体がとにかく好みで読んでいて心地よく、味わう読書をさせてもらいました。
2012.01.07