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ピックアップ10冊 2012年
2012 年に読んだ本のなかから特に印象的だったものを 10 冊ピックアップしてみました。
明確な順位をつけたわけではありませんが、ざっくりと上の方がより面白かったものです。
番号が ピンク のものは小説、 のものは小説以外です。

01名画を見る眼』 高階 秀爾
西洋絵画の「見方」が書かれた本。美術品に見方も何もあるか、自分がいいと思うものを好きなように見ればいいんだい、という理屈がいかに偏狭でもったいないかが身にしみる。この一冊で、美術館に行った時に自分の目線が変わった。より作品を理解するための知識を読みやすく教えてもらった。
02もうすぐ絶滅するという紙の書物について』 ウンベルト・エーコ、ジャン=クロード・カリエール
重厚な装幀に及び腰になって開いてみたら、なんとまあ面白かったことか。愛書家ふたりによる、本にまつわるあらゆる事象についての対談集。読書が好きと本が好きは似ているけれどやはり違う。読書だけではなく、本がそもそも好きなのだ、という人は読んで損なしだと思う。
03蜘蛛女のキス』 プイグ
アルゼンチンの刑務所を舞台に、同房になったテロリストの青年とゲイの中年男の微妙で測りがたい関係を会話文だけで綴る。社会背景とか国の存在とか重い描写もあるのだけれど、読んでいてただ純粋に面白い。何もかも対照的なふたりが身を寄せ合っていく過程を笑いながら、息をひそめながら追ってしまう。
04スティル・ライフ』 池澤 夏樹
読んでいると辺りが居心地のいい空間に変わってゆく稀有な小説。アルバイト先で知り合った青年に頼まれてとある仕事の手伝いをする「スティル・ライフ」、父娘と中年のロシア人男性の交流を描写する「ヤー・チャイカ」。どちらも、適温の透明な水に浸されるような心地よさを持っている。
05『時刻表2万キロ』 宮脇 俊三
国鉄全線に乗ることを目指し、日本全国を飛び歩き 2 万キロを超える線路を乗り尽くした宮脇さんの紀行記。(私を含む)一般の人には面白くも何ともないこの行為を心から楽しんでいる姿を見ると、オタクというのはかくあるべき、と頷いてしまう。電車に興味がなくても十二分に面白い。
06『陰翳礼讃』 谷崎 潤一郎
洋の東西はものごとの良い悪いを分ける線引きではない。それぞれが独自の文化を持っていて、そこに上下はない。そんな当たり前のことを、日本の陰翳を愛する姿勢からごく自然に取り出している。何篇か収録されているうち、表題作の他は「厠のいろいろ」が秀逸。
07夜の果てまで』 盛田 隆二
大学生の若さでありながら、一生の一人と出会ってしまった俊介。人妻である彼女との息の詰まる果てのない逃避行を丹念かつ漏れのない筆で描く。厚めの長篇小説で、主人公ふたりの周囲の人々も掘り下げられている。泣いたり嘆いたりする小説ではなくて、静かに読み進められる、そして読後にきちんと存在感の残る一冊。
08『Starman: The Truth Behind the Legend of Yuri Gagarin』 Jamie Doran、Piers Bizony
和訳の出版がなく原本で読んだため半分も理解できていない。欠陥があるとわかっている宇宙船に搭乗し亡骸になって地球に帰還したソ連の宇宙飛行士コマロフの存在をこの記事で知り、もっと知りたくなった。ガガーリンの生涯を追う一冊なのでコマロフに関する描写は多くないけれど、1960 年代の宇宙開発の凄まじさを垣間見た。
09『モザイク』 田口 ランディ
この小説をというよりは、この一冊が最後を飾る『コンセント』、『アンテナ』からの成る三部作を挙げたい。オカルティックな世界でもありながら、人が救われるとは? ということをいくつかの可能性から探った三部作。生身の体を持ちながらこの世界で生きるということのえげつなさを悲しみながら受け入れる人々がいる。
10うたう百物語 Strange Short Songs』 佐藤 弓生
百の短歌から百の掌篇怪談を紡ぎ出す。この試み、雰囲気ある表紙絵、紙面の美しさと、そういったところで印象に残る一冊。いわゆる「あの世の者」に対して、恐ろしさよりも悲しさや虚しさを感じる私と相性のいい一冊だった。

  2012 年に読んだ本は 52 冊、43 作。2011 年に引き続き、あまりに少ないです。せめて 80 冊くらいは読めるといいのだけどと思います。と、書いたところで昨年のコメントを読み返したら、まさしく同じ事を言っていました。2013 年こそは、と意気込みを新たにします。

 2012 年はここ数年と変わらない読書傾向かなと思います。ただ、自分のなかでは本の好みが変わってきていると感じていて、積読本をくずしながら「これはもっと早く読んでおかないといけなかったなあ」と思うことが増えました。長期間の積読本が生み出す悪い面がはっきりと見えた年であったと思います。早く古い積読本を崩さねば、という気持ちが強くなりました。

 上に挙げた本以外には『月桃夜』や『物質的恍惚』が印象的でした。『物質的恍惚』はピックアップ 10 冊に入れたい気持ちもかなりあったんですが、そこに入れるにはまだまだ自分の理解が追いついていない感が強く、外させていただきました。
 最近読んだから印象がまだ鮮明である、という理由もある気がしますが、『幻視街』と『治療者の戦争』も迷った二冊でした。特に『幻視街』はするする読めて、「単純に小説を楽しむ」ということができた本でした。

 もう一度言いますが、2013 年はもっと冊数を読める年にできますように。
 
2013.01.03