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ピックアップ10冊 2013年
2013年に読んだ本のなかから特に印象的だったものを10冊ピックアップしました。
明確な順位付けをしたわけではありませんが、おおむね上から順により存在の大きい本です。
番号が ピンク のものは小説、 のものは小説以外です。
タイトルから張っているリンクは読後に書いた感想記事に飛びます。

01春を恨んだりはしない ――震災をめぐって考えたこと』 池澤夏樹
3.11の震災半年後に刊行された本。それを20133月に読んだ。丸2年、震災に対して何もできずにいた私に、向き合うきっかけをくれた本。池澤さんがあの震災に向き合い、考えたことが、知識と共に真摯に書かれてある。
02夜間飛行』 サン=テグジュペリ
熾烈かつ強く揺るがない、飛行士の姿。必要最低限、かつ決して欠くことのできない描写だけで構成された、珠玉の短篇。堀口大學さんの訳文がふるえるほど美しく、読後一年を経て、読んだ時の衝撃がいまだ衰えない。擦り切れるほど何度も読み返したい一冊。
03『第七官界彷徨』 尾崎翠
少女・町子が兄弟ら3人の男どもと暮らす、その生活でのこもごも。読んでる途中、森見登美彦さんをたびたび思い出した。会話の軽妙さ、可笑しみ、現実なのに常にただようあわあわとした非現実など。人間の五官と第六感、その先にある(はず)の第七官界。そこをまさしく“彷徨”する体験に導かれる。
04葉書でドナルド・エヴァンズに I』 平出隆
本と小説と文章はそれぞれに違う。これは本として完璧に近いほど完成された本。平出さんがアメリカの画家に宛てた葉書に綴った日記を収めたもの。うつくしい装幀と端整な文章が均衡を保った、本を読むことで得られる充足感を存分に呼吸できる本。
05全ての装備を知恵に置き換えること』 石川直樹
探検家であり写真家でもある石川さんのエッセイ。自分の体で移動することに心地よさを感じる石川さんが、脚や自転車で世界を巡り、そこで出会ったものについて考え書く。身ひとつで生きることを知っている人の文章が放つ清冽さがどこまでも清々しい。この一冊で石川さんに惚れて、写真展に足を運び、平凡社さんのサイトで連載中の「ぼくの道具」も愛読中。
06ダロウェイ夫人』 ヴァージニア・ウルフ
第一次世界大戦直後のロンドンを舞台に、クラリッサ・ダロウェイと彼女の周囲の人々を時間を追って描く。次々に視点が変わり、それぞれが自身と周囲の人々を語り、その語りが大きなうねりを持って小説をかたちづくる。読み心地よく、読後いつまでの存在感を放つたった一日の物語。
07ホテル・アイリス』 小川洋子
小川洋子さんは最も愛する現代作家。その小川さんが描く、少女と老齢の男のいびつで純粋過ぎるほど純粋な関係。卑猥で、淫靡で、どこまでも煮詰まり続けるだけで圧の逃げる余地がない2人の関係。そこに恍惚とする。
08王妃の離婚』 佐藤賢一
15世紀フランス、ルイ12世は即位するやいなや妻に離婚をつきつけた。予定調和的に終わるはずだった離婚裁判は、妻ジャンヌが離婚を拒否したことで波乱のるつぼとなる。そこに立つ、かつてその優秀さでカルチェ・ラタンに名を響かせた弁護士フランソワ。興奮と熱狂の裁判所をありありと思い描ける、良質で極上のエンターテインメント。
09『老人と海』 ヘミングウェイ
海に立ち、海と対峙する漁師の老人。着々と、一つ一つ描写と独白を重ね、魚に向け静かに熱を滾らせる老人を活写する。息を詰め、息を呑み、老人と海のやりとりを追いかける。静かに興奮する小説だった。
10『室生犀星詩集』 室生犀星
中原中也や島崎藤村など何人かの詩人の詩集を音読してみた2013年、もっとも好きだったのは室生犀星だった。詩を読む経験があまりに少なくて何が、何故好きだと感じたのか言葉にできないのが歯がゆいけれど、とにかく一番好きだと感じたのが室生犀星だった。

 2013年に読んだ本は7268作。一昨年、去年は41冊、52冊と来ていたので、多いとは言えないまでも、どうにかいい冊数に乗れたかなというところです。

 2012年のピックアップ10冊で「自分のなかでは本の好みが変わってきていると感じていて、積読本をくずしながら「これはもっと早く読んでおかないといけなかったなあ」と思うことが増えました。」と言いましたが、こういった「長く積読することで読み時を逃すこと」が怖くなり、2013年の目標には「2011年以前に買った本をすべて読む」を掲げました。
 そもそも目標に掲げねばならないほど2年以上の積読本の冊数があるという事実はひとまず置いておいて、この目標は無事達成することができました。この「2年以内」という縛りはこれからも継続していこうと思います。

 2013年は、なんと言っても読む本の世界が古本にまで広がったことが一番大きな収穫でした。
 ずっと「古本は苦手」と公言してきましたが、ツイッターで「一箱古本市」というものの存在を知り、素人の本好き読書好きが1日だけ段ボール箱1箱に自分が読んだ本を並べ古本屋さんになるというそのイベントに興味を引かれ、ゴールデンウィークに不忍通りで開催された不忍ブックストリートの一箱古本市に出向いたのが始まり。一気に古本の面白さにハマり、鎌倉のbooks mobloさん、学芸大学駅の流浪堂さんとSUNNY BOY BOOKSさん、東京駅八重洲地下街のR.S.Booksさんなどにお邪魔しました。

 また、新刊書店も、1冊目に挙げた池澤夏樹さんの『春を恨んだりはしない ――震災をめぐって考えたこと』を知るきっかけになったイベント「震災復興を問いかける 文字の力、映像の力」(感想記事) を開催した下北沢の本屋B&Bが目からうろこが落ちる面白さで、ここ数年書店には「目的の本を買いに」行っていたのを、面白い本屋さんに「何かいい本を探しに」行くことが増えました。
 鎌倉のたらば書房さんについては『葉書でドナルド・エヴァンズに I』の感想記事の冒頭で長々と語っていますが、他にも藤沢市のBOOKSHOP KASPERさんや渋谷のSHIBUYA BOOKSELLERSさんなど。

 本のイベントも、一箱古本市を筆頭にいくつか遊びに行きました。
 一箱古本市は不忍ブックストリートのものの他、鎌倉で6月にあった「ブックカーニバル in カマクラ」(感想記事)と12月に三浦郡葉山町であった「はやま一箱古本市」(感想記事)。
 一箱古本市以外のイベントでは、小田原のオルタナティブスペース「旧三福」で開催された三福文庫さん主催の「三福文庫×books mobloの島ZINE」(感想記事)、月島の高齢者施設で開かれた「あいおい古本まつり」とそこで開催されたトークイベント「普通の人に話を聞くとき」、鎌倉の小さな出版社・港の人さん主催の「かまくらブックフェスタ」。渋谷の映画館アップリンクで開かれていた「トマフェス2013」はアップリンクに映画を観に行くたびに立ち寄ったので、結果三度行くことになりました。

 行く書店の幅がぐんと増えたことで、ZINEやリトルプレスの面白さを知ったのも大きいです。書棚にZINE・リトルプレス・フリーペーパーコーナーが出来ました。

 行ってみたい書店さんは古書・新刊両方まだまだありますし、本のイベントも行きたいですし、今年もあちこちに出向くようにしたいところです。

 2013年に読んだ本で上に挙げた以外によかった本は『求愛瞳孔反射』(穂村弘)、『転がる香港に苔は生えない』(星野博美)、『ことばの食卓』(武田百合子 文、野中ユリ 画)、『新装版 間宮林蔵』(吉村昭)、『戦争における「人殺し」の心理学』(デーヴ・グロスマン)などなど。総じて、はずれと感じる本のとても少ない一年だったと思います。
 せっかく面白い本を読んだのに、9月に職を変えてから自由時間がぐんと減り、ちっとも感想文を書けていないのが最大の反省点です。

 2014年もまた、よい本との出会いに恵まれますよう。また、まめに感想を書くように努力します。
 せっかくイベントに出向くなら本好きの方との交流も目指したいです。人見知りには高いハードルではありますけども。
2014.01.11