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本好きさんに50冊の質問
一問ニ答、25 問の質問で 50 冊の本を紹介します。
タイトルから貼られているリンクは感想のページへ飛びます。
以下の自分ルールを設定しています。
・挙げるのは小説のみ
・一作家につき、一冊のみ
・Q08 の「人から教えてもらって読んだ本」は推薦で教えて頂いた本以外

Q01. 小学校・中学校のころに読んだ、おもしろかった本を2冊教えてください。
『そして五人がいなくなる』 はやみね かおる
 読んだのは、まだ十歳にはならない頃だったと思う。初めて自分で選んで買ってもらった本。児童書だけど、どこにも子供だましのない素晴らしい本だと今読んでも思う。内容は探偵ミステリー。
 もしこの本を手にとっていなければ今ほどの読書生活はなかったかもしれない。読書人生には大きな転機となる重要な本が何冊か現れるけど、これはそのうちの一冊。子どものうちにはやみね作品に出会えたら、きっとずっと幸せな読書人生を送れるんじゃないかな。
『妖精王の月』 O. R. メリング
 小学校三年生か四年生の頃に、教室の本棚に混じっていた。蔵書ラベルが貼っていなかったから、誰かが勝手に置いていった物だと思う。毎日の休み時間を使って少しずつ読んだ。
 アイルランドを舞台に、ふたりの少女が妖精の世界に入り込んでいく。アイルランドやケルト神話に興味を持つようになったのはこの本を読んだから。
 装丁がきれいで、まず手に持っていることが楽しかった。読書好きから本好きへと自分の枠が広がるきっかけになったのはこの本かもしれない。

Q02. 10代のころに読んだ、おもしろかった本を2冊教えてください。
『僕らは玩具の銃を手に』 榊原 和希
 十歳から十六歳頃まではライトノベルばかり読んでいた。これはそのうちのひとつ。
 登場人物は小学生、中学生、大学生。十代に特有の胸底がちりちりする感じが伝わってくる。作品のキーワードは「葛藤」だ。
 十代に読んだライトノベルのほとんどが古本屋へ行ったなかで、この本は今でも私の本棚にならんでいる。何度も読み返したし、今でもたまに手にとって、このなかにあるものを確認してみたくなる。
『水のなかの光り』 深谷 晶子
 これもライトノベル。四人の高校生と一人の少女の物語。過去に縛られて身動きできない四人の少年少女への救い。
 深谷晶子さんは私の文体に一時期大きく影響を与えた作家で、今でもひそかに新作を期待している。深谷さんの小説には透明感という言葉がとにかく似合う。
 ライトノベルを一般文芸と比べることはできないし比べればライトノベルに軍配が上がることはないと思っているけれど、だからこそ、ライトノベルに傾倒していた十代にこの本を読めてよかった。

Q03. 最近読んだ、おもしろかった本を2冊教えてください。
』 皆川 博子
 読む本を持って出るのを忘れてコンビニで買ったのだけど、読み始めた時はそれはつまらなかった。8つの短編のうち半分まで読み進めてもまったく面白みを感じられなくて、結局中途半端なまま数ヶ月放置した。そして最近になって残る4編を読み始めて、とても心に残る本になった。
 現実との境目があいまいな幻想世界を舞台とした小説で、この世ならざるものと現実の人間がゆるやかに混ざり合う。文体に馴染むまでずいぶんかかったけれど、読んでよかった。山尾悠子さんの『ラピスラズリ』や小川洋子さんの『沈黙博物館』を想起させられた。
夏姫春秋』 宮城谷 昌光
 大学でお世話になった教授におすすめ頂いた本。教えて頂いてから一年以上経って、ようやく読んだ。
 中国歴史小説で、春秋時代が舞台。歴史小説だということで、実は読み始める前は身構えていた。読むのが大変なんじゃないかと思っていた。のだけど、実際のところはかなり読みやすかった。
 数十年に及んで戦国時代の国々を描いたこの本は雄大で、同時に登場する主要人物それぞれを細かく書いてあるので共感もできる。読みごたえのある本だった。

Q04. 徹夜して読んだ、おもしろかった本を2冊教えてください。
『魔性の子』 小野 不由美
 正真正銘、一晩で読みきった。小中学生の頃にライトノベルを徹夜で読むことはあったけどそれ以後はまったくないことだったのでページを繰る手が止まらないことに驚いた。
 初めて読んだ小野さんの小説は「十二国記」シリーズで、そちらを読了後にこの本が「十二国記」とリンクしていると知って読んでみた。私は先に「十二国記」を読んでいたからこの本における謎はすべて知っている状態だったわけだけど、こちらを先に読んでいたら持った感想はかなり違っていたはず。先にこちらを読んでもみたかったなと思う。
春琴抄』 谷崎 潤一郎
 読了したのは夜中の三時頃だったので、正確には徹夜ではない。けれど眠気をこらえて最後まで思わず読みきった本であることは事実なので。
 美しいが驕慢な春琴と、彼女に付き従う佐助。事件によって変質してゆく佐助と春琴の様が悲しくて美しい。ふたりの距離は永遠に近づかない。
 谷崎の小説は私にとっていつでも魅力的だけど、七十ページのなかに谷崎のエッセンスが凝縮されたようなこの小説はなかでも特別重要な位置を占めている。舞台化・映画化が多くされているのが納得できる。たしかにこれは“自分で表現してみたい”と思わせる小説だと思う。

Q05. 何度も読み返した本を2冊教えてください。
『ターン』 北村 薫
『スキップ』『リセット』とあわせて三部作になる。私はこれが一番好き。
 気持ちがささくれたり不安に押しつぶされそうになると、この本に手が伸びる。ストーリーは、主人公の真希を見つめる視点からの二人称で進んでゆく。二人称の小説はほとんど読んだことがなかったのだけど、その距離感がいいなあ、と思う。始まりから終りまですっきりとした、気持ちのいい小説。読むうちに毛羽立った心がなだめられるのを感じる。
 この三部作を手に取ったきっかけは、表紙のイラストに見覚えがあったから。中学校の国語の教科書の挿絵で、このイラストレーターさんの絵を見たことがあった。こういう偶然が引き寄せてくれる出会いはとてもうれしい。
『娼年』 石田 衣良
 高校生の時、学校の図書館で平積みされていたのを表紙がきれいだという理由で手に取った。その時は、数十ページ読み進めて性描写が入り始めたところでやめてしまった。当時の私は性描写が極端に苦手だった。
 なのに数日経ってまた図書館に行った時にもう一度手にとってしまったのは、あらがいようのない吸引力がこの本にあったからだ。ひとつ壁を抜けると後はもうただ愛おしいばかりの描写があふれていて、文庫化を待って自分の手元に置いた。今も、手に取る時にはすこし神妙な気分になる。
 石田さんの恋愛小説は、進んで読む気になれない。それは、私のなかの“石田衣良の恋愛小説”という位置を「娼年」に独占していて欲しいから。

Q06. 映像化して欲しい(あるいはされた)、おもしろかった本を2冊教えてください。
ノスタルギガンテス』 寮 美千子
 少年の一人称で進む、痛みや疎外感、悪意、さまざまな感情があふれた小説。どことも知れない場所で暮らしている少年がその瞳に映している世界を、アニメーションで見てみたいなと思う。特にラストシーンを見てみたくてたまらない。
 大切な宝物を誰にも見つからない、ふさわしい場所に置いた。たったそれだけの行動が、周囲を大きな渦に巻き込んで変えていく。児童書とは呼べない、けれどきっと大人には理解できない、そういう物語だ。
鉄塔家族』 佐伯 一麦
 観たことがない映画なので予告編を見ての印象だけど、この小説を映画化したら「めがね」や「かもめ食堂」のような雰囲気の映画にできるのじゃないかなと思う。
 鉄塔の根本で暮らしているたくさんの家族。事情を抱えて生きている彼ら彼女らの姿を無理なく丹念に描写してある。
 文体とどうにも呼吸が合わなくて読み進むのが少し難しい本だった。けれどそれを超えて、とても好きな本だ。

Q07. 読んで泣いてしまった本を2冊教えてください。
『スプートニクの恋人』 村上 春樹
 大学受験の真っ只中の、感情がぴりぴりと毛羽立っている時に読んだ。ほかにもトラブルがあって、自分へ向かってくる波に対してなんの抵抗もできない時期だった。そういう時にものすごく自分と似た状況の主人公に出会ってしまったので、思う存分感情移入してたがが外れたように泣いた。
 あまりに自身をオーバーラップさせて読んでしまったので、少なくともあと数年は、もしかしたらもう一生涯、客観的に見ることができない小説かもしれない。
『半落ち』 横山 秀夫
 警察小説を得意とする横山秀夫さん。私が初めて読んだこの人の本がこれだった。わかりやすく泣かせてくれる小説だと思う。
 警察用語(という言い方でいいんだろうか)で、「落ちる」とは事件についてすべてを自供している状態。「半落ち」は、まだすべてを語りきっていない状態だ。アルツハイマー病の妻を殺害して自首した警察官は、自分の行動についてたった一箇所、決して語ろうとしない。
 素直に泣いた。実直な文章と筋立てで、余計な膜がない分、人の想いだとかぬくもりだとかをストレートに感じさせてくれる。

Q08. 人から教えてもらって読んだ、おもしろかった本を2冊教えてください。
『天使の囀り』 貴志 祐介
 ツイッターでフォローさんに教えて頂いた本。やけにホラーを読みたくなっていた時期だった。
 同時期に同じく貴志さんの『黒い家』と『クリムゾンの迷宮』も読んだけれど、これが一番印象深い。ストーリーや仕掛けももちろんなんだけれど、作中で語られる寄生虫の生態が興味深かった。動物の体内に巣食って、「いかに生き残るか」のためだけに進化を遂げた存在。おぞましく、だからこそ魅惑的。芽殖孤虫というものをこの本で初めて知った。
『玩具修理者』 小林 泰三
 こちらも同じくツイッターで、ホラーブームが来ていた時に教えて頂いた。
 臓腑の赤色が目の前いっぱいに広がるような、狂気とグロテスクが渾然一体となった小説。というより、文章の群れ。昼には決してサングラスを外さない妙な女が語る、幼い頃の夏の記憶。どんな玩具も必ず直してくれる「玩具修理者」。
 気持ち悪いものが嫌いなら読まない方がいい。目を逸らしたくなるものほど貪りたくなる時がある。

Q09. おもしろかった外国の作品を2冊教えてください。
『スノードーム』 アレックス・シアラー
 たった一度しか読んでいない。けれどその一度で、私のなかに深く食い込んだ。
 醜く憐れな男のいびつな愛の物語だ。どうしようもなく苦しくて、どこにも持って行きようのない感情にやるせなくなった。
 この本を読むまで、私は海外小説に対して壁を作っていた。この沙々雪で海外小説を扱うか悩んでいた。『スノードーム』を読んで、この本に関して語らないなら沙々雪を開設している意味が無いと思った。
わたしを離さないで』 カズオ・イシグロ
 沙々雪でおすすめ頂いたたくさんの本のなかでも、一、二を争う本。
 この本のあらすじは語りたくない。自分にとってとても大切な小説なので、あらすじを語ることで人に対して先入観を持たせることをしたくない。
 おすすめの小説なにかある? と訊かれると、私は他のどの小説よりも、この本をすすめたいと思う。

Q10. おもしろかった長い本を2冊教えてください。
『裏庭』 梨木 香歩
 分厚いハードカバーが小学生の頃から本棚に並んでいる。特別長いと言うほどの厚みではないかもしれない。もっと長い本も読んだ。けれど、何度読んでも理解しきれないめくるめくストーリーのために、途方もない物語を前にした心細さのようなものに読むたびに見舞われる。
 枚数の多さによる長さというよりも、主人公と共にする旅路の長さ。
本格小説』 水村 美苗
 厚めの文庫で上下巻。こちらもやはり、驚くほど長いという小説ではない。ただ私にとっての存在感の大きさで、「長い本」というイメージが生まれている。
 幼く、つたなく、そして決死の恋の物語。作中で流れる時間は長く、そのなかで決して変化しない、異常とも言える感情を抱く人々。
 文体が好きでとても心地良く読み始めて、そして読み進めるうちに、書かれている恋のあまりの息苦しさに読んでいるのがつらくなった。

Q11. かっこいい! と思った本を2冊教えてください。
『青空のルーレット』 辻内 智貴
 この小説に対して、「かっこいい!」以外の言葉は出てこない。
 ビルの窓拭きを生業に日々を暮らす人々の、地上数十メートルでの日々。心底かっこいい人々の、大して振り返られることもない物語。
 清々しくて爽快で、パワーが欲しい時に読みたくなる。この小説に出会えてよかったなあと思うし、このたった一冊で、辻内智貴さんは私にとって「好きな小説家」のひとりになった。
『ナ・バ・テア』 森 博嗣
 「スカイ・クロラ」シリーズの二巻目。一作目の『スカイ・クロラ』を読んで、陰のある小説だなと思っていた。だから、『ナ・バ・テア』を読んで驚いた。突き抜けるような爽快感があった。
 シリーズ全体を通して言えば、やはり全体的に暗さの漂う小説だと思う。けれどこの『ナ・バ・テア』に関してだけは、読み終えた時に思わずくつくつと笑いがこみ上げるくらい、そのかっこよさに心地良く酔える小説だった。
 「スカイ・クロラ」シリーズを時系列順に並べると、『ナ・バ・テア』が一番古い。作者は『ナ・バ・テア』が一巻だと語っているらしい。

Q12. 次の中から質問を選び、全部で2冊、教えてください。
12-1. 家族(親戚・恋人含む)の本棚で見つけて読んだ、おもしろかった本を教えてください。
12-2. 誰かにオススメしたことのある本を教えてください(できれば評判の良かったものを)。
12-3. 何かの「きっかけ」になった本を教えてください。
『MISSING』 本多 孝好
 十歳の頃に『スレイヤーズ!』を読んで以来、私はライトノベルに傾倒していた。この本は、私がライトノベルから一般文芸に復帰するきっかけになった本。
 ミステリーにジャンル分けされているけれど、ミステリー要素は少ない。それよりも、人の心の機微をほのかなユーモアを交えて書いた本だ。短篇集なのだけど、私は「瑠璃」という一編が好き。
 もう当時ほど本多さんの小説を「すごい」と思えなくなってしまったけれど、それでも本多さんは、この先も私にとって重要な作家であり続けると思う。
12-4. おもしろかった短編集を教えてください。
『老ヴォールの惑星』 小川 一水
 初めてまともに読んだ SF 小説。どこでこの本を知ったのだったかまったく覚えていないのだけど、出会えたことに感謝した。
 四つの短編がおさめられている。「ギャルナフカの迷宮」と「漂った男」が良い。私はストーリーの面白みよりも人間の生きる様子をいかに書き上げるかに重きを置いて小説を読む。だから SF やファンタジーは苦手だと思っていた。ストーリーのために登場人物が用意される小説だと信じていたからだ。けれど、現実とはちがう世界を舞台とするからこそ描ける人間模様があるのだと、この本を読んで思い知らされた。

Q13. ずっと気になっていて、やっと読んだおもしろかった本を2冊教えてください。
『となり町戦争』 三崎 亜記
 なにしろタイトルに惹かれてしまった。三崎亜記さんは、毎度反則的なタイトルのつけかたをしてくると思う。気になっていたわりに読むのが遅いのはいつものことだけど、この本に関して「ずっと気になってた」という印象が強いのは、それだけ強くこのタイトルが気にかかっていたからだと思う。
 あらすじはタイトルの通りだ。となり町と戦争をする。一体本当に戦争をしているのか判然としないあいまいな日々のなかで、主人公は少しずつ、戦争に踏み込んでいく。
 どうも好き嫌いのはっきりとわかれる小説らしいけれど、私の好みにはあった。三崎さんの小説は他にも気になるものが多いので、読んでみたい。
『赤い夢の迷宮』 勇嶺 薫
 この本が上梓されたのは 2007 年のことだ。けれど私は 2000 年代の始まる前から、この小説を待ち続けていた。
 「勇嶺薫」は児童文学作家であるはやみねかおるさんの別名義だ。勇嶺薫さんは、その片鱗をはやみね作品に二度見せたことがある。それを見たときからずっと、私は勇嶺さんの作品を読みたくて仕方がなかった。
 読後感の悪さをはっきり保証できる、血塗られたミステリー。「はやみね」ではなく、「勇嶺」の小説。

Q14. すごい勢いで読んでしまった本を2冊教えてください。
『ガールズ・ブルー』 あさの あつこ
 読む本を持って出るのを忘れて、コンビニで買った(私はこれを時々やる)。本自体が薄かったこともあるけれど、それにしてもあっと言う間に読みきってしまった。
 あさのさんの小説を読むなら最初は「NO.6」シリーズにしようとずっと心に決めていた。けれど、コンビニの書棚でこの本を見つけたとき、「これでもいいな」と思ってしまったのだ。その勘はあたった。
 読みやすく、面白く、そしてきちんと心に残るいい本だ。
あの日にドライブ』 荻原 浩
 荻原さんの小説は面白い。そして読みやすい。ページを繰る手が止まらない。
 元銀行員にして現タクシードライバーの主人公が、延々と自分語りをする。それだけといえばそれだけなのに、きっちり読ませてくれる荻原さんはすごい。 
 ちなみに、本とは関係ないことだけど、この本も件のコンビニで買ったものだ。

Q15. 年を取ってからもう一度読みたいな、と思った本を2冊教えてください。
『センセイの鞄』 川上 弘美
 この本を読んだ時、ちっとも良さがわからなかった。どうしてレビューであんなにも絶賛されているのか理解できなかった。その後、川上さんの短編を読む機会があって、「ああ、私はまだこの人の小説を受け止められるだけの年に達していないんだ」とわかった。
 川上さんがこの小説を書いたくらいの年になったら、また読んでみたいと思う。
やがて目覚めない朝が来る』 大島 真寿美
 主人公の半生を辿ったこの小説には、多くの人々が、そしてその人々の死が現れる。小説で人が死ぬのは珍しくない。けれど、この小説ではそれがとても穏やかに書かれていて、その分現実の死ととても近いものに感じられたのだ。
 私は自分が老いを感じいまよりさらに死を身近なものに感じた時に、この本を読んでみたいと思う。

Q16. タイトルが印象に残っている、おもしろかった本を2冊教えてください。
『佇むひと リリカル短篇集』 筒井 康隆
 「佇むひと」。たたずむという言葉がまず好きな私にとって、タイトルだけで手に取るには充分な本だった。
 筒井作品を読んだのはこれが初めてだった。正直に言うと、失敗だったかなと思う。筒井作品にはくせがある。そのくせの楽しみ方をわかっていないと、面白くない。タイトルが印象に残っている「おもしろかった」本という質問には合わないかもしれない。
 けれど、それを押して、私はこのタイトルが好きなのだ。
ハミザベス』 栗田 有起
 造語って難しいと思う。奇をてらい過ぎればちぐはぐになるだけだし、既存の言葉を安直にもじっただけでは下手な駄洒落にしかならない。その点、このタイトルはいい。「ハミザベス」。
 私はこの本を読んだ時、「ああ、小説を読んだなあ」と思った。小説を定義することは難しい。私はいまだに言葉で「小説とはなにか」を言えない。けれど、小説らしい小説ってなんだと訊かれたら差し出したくなる本の一冊が、これだ。

Q17. 無人島に行くなら持って行きたい、と思う本を2冊教えてください。
『沈黙博物館』 小川 洋子
 何度読んでも理解できない、読むたびに姿を変えるような、万華鏡のような小説がいい。これはまさしく、そういう小説だと思う。
 私の好みの文体で日記を書くウェブサイトの管理人さんが、その日記のなかで名前を出していた。書店で探しまわって手に入れた。
 死者の遺品を集めた博物館を運営している老婆、その手伝いに呼ばれた青年。どことも知れない、いつともわからない、どこかで起こった物語。
『ウォーレスの人魚』 岩井 俊二
 海に囲まれた孤島で読むにはぴったりの小説だと思う。お伽話の人魚ではなく、人類進化の可能性としての人魚。
 岩井俊二といえば私にとっては映画監督だけれど、この本は映画化されていない。けれど読んでいる最中は、岩井監督の撮る映像で情景が脳内再生されていた。
 頭のくらくらとするような描写が続くので、読んでいる最中は別世界へ飛ばされていた。生物が好きという人には一度読んでみてもらいたい本。

Q18. いつも本棚に並べておきたい、と思う本を2冊教えてください。
ラピスラズリ』 山尾 悠子
 ずるいくらいに美しい装幀。千冊を越える蔵書があるけれど、箱入りの本はこれ以外には一冊しかない。私の持っている本のなかで、装幀の美しさと贅沢さで『ラピスラズリ』に敵うものはない。
 もちろん、見た目の良さだけではない。文体も描写も話の筋も、この美しい装幀に包まれるだけの価値がある。
雪の断章』 佐々木 丸美
 この本は、図書館で借りて読んだ。古い本だった。活版印刷だった。
 あまりに大切な本は、「自分が手にとって読んだその本」を手元に置きたくなる。世に何万冊同じ本があろうと、自分にとってはその一冊だけが価値を持つ。これはそういう本だった。
 もちろん、図書館の本を自分の本棚に置くことはできない。見果てぬ夢というやつだ。その後文庫版が発売されてそれを買ったけれど、この小説のことを考える時は今でもあの活版印刷の凹凸のある古びた紙面が浮かんでくる。

Q19. もっと早く読みたかった! と思った本を2冊教えてください。
『ブレイブ・ストーリー』 宮部 みゆき
 小学生や中学生の時に読みたかった。二十歳を過ぎて読むのはもったいなさ過ぎた。
 わくわくして、ドキドキして、おそろしさも葛藤もあり、けれど力強く進まねばならない異世界での冒険物語。
 「大人が読んでもつまらない」なんてことは言わない。けれどやっぱり、こういうのは子供が読んでこその小説だと思う。
『星の王子さま』 サン=テグジュペリ
 そもそも、名作と呼ばれる作品は中学校を卒業する前に読んでおくものだと思っている。教養がどうこうという話ではなくて、そういう作品はその先読書生活を築くための基盤になってくれるから。
 『星の王子さま』は、まちがいなくそのうちの一冊だろう。この本に対して、大人だからこそできる読み方はある。けれど同時に、子供でなければできなかった読み方も、間違いなくあるのだ。それをもう決してできないことが、惜しくてたまらない。

Q20. 衝動買いして読んだ、おもしろかった本を2冊教えてください。
幽霊人命救助隊』 高野 和明
 某書店のポップで「表紙やタイトルで読まず嫌いせずに読んでみてくれ」と書いてあって、そのあまりにあけすけで、そして必死の訴えに思わず手に取った。
 読んで良かった。面白く、ユーモラスで、そしてぼろぼろ泣けてしまう本だった。扱っているテーマは自殺だ。重い。あまりに重い。けれど、重いテーマだからこそ、読者が怖じ気づかずに読み進められるように優しく読みやすく書いてある。作者の誠意を感じられる本でもある。
つむじ風食堂の夜』 吉田 篤弘
 これもやはり、書店のポップで目に止まった。そして、表紙のあたたかさもタイトルの妙も、あわせて私の手を引いた。
 人に本をすすめる時、真っ先に候補に挙げたくなるうちの一冊だ。「ハッピーエンドが好き」「読みやすい本が好き」と言われたらまず間違いなくこれを渡す。
 この世界とはちょっと違う、でもそれほど遠くない、月舟町にあるつむじ風食堂を訪れる人々の物語。

Q21. 教科書・授業・テストなどで知って読んだ、おもしろかった本を2冊教えてください。
『山月記』 中島 敦
 定番中の定番、「山月記」。読んだことのある人がほとんどだろうと思う。人の愚かさ、醜さを余さず書いた名短編。
 読んだのはもう十年近くも昔で、再読はしていないので感想はうまく語れない。そんな昔の話にも関わらず真っ先にタイトルが出てくるあたり、この存在感は尋常ではない。
『門』 夏目 漱石
 高校の読書感想文で読んだ本。「こころ」も読んだけれど、私は「門」の方が好きだ。
 夏目漱石ほど人間を書くことに優れた作家はいないと思う。夏目漱石の小説を読んで私は、自分が物語よりも人間を読みたくて小説を読んでいるのだと自覚した。

Q22. 好きな作家さんの本の中から、特におもしろかった本を2冊教えてください。
『薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木』 江國 香織
 江國香織さんは私にとって、誰とも似ていない孤高の作家だ。女流作家が恋愛小説を書く。もっともありがちでありながら、他の誰にも書き得ない小説だけを書いていると思う。
 なかでも、この本は私にとって妙に印象深い。発売された頃からタイトルが気になっていて、文庫化してから手に取った。
 さまざまな立場の九人の女たちの恋を描いた、とても均整の取れた本。
『ロリヰタ。』 嶽本 野ばら
 嶽本さんの小説は読みやすい。どの本もするすると読み進められる。『ロリヰタ。』も例外ではない。けれど私はこの本を読んだ時、あっさり読み終えるのが惜しくてゆっくり、ゆっくり、すべてを味わいつくすようにして読んだ。
 私はまだ嶽本野ばらさんの著作を全部は読んでいない。この先、できれば全部読みたいなと思う。それくらい好きな作家だ。そして同時に、『ロリヰタ。』以上にどうしようもなく愛しい小説は、ないのではないかという予感を抱いている。

Q23. 続きを読みたい! と思った本を2冊教えてください。(シリーズだろうと無かろうと)
永遠の森 博物館惑星』 菅 浩江
 一応この本で完結しているけれど、他の本に同じ舞台の小説が収録されているらしい。ぜひ読みたい。
 近未来、衛星丸ごとを使った巨大博物館で起こるさまざまなトラブルを追った近未来小説だ。主人公が相棒として頼るデータベース・コンピュータの存在が、とても魅惑的。
 短編連作形式の本なのだけど、何編でも続きを読みたいと思える本だった。面白く、読みやすく、居心地の良い本だった。
『プレーンソング』 保坂 和志
 続編はとっくの昔にでている。『草の上の朝食』だ。けれどまだ、読んでいない。きっと、いつ読んでもいいと思っているからだと思う。
 どうともとらえどころのない小説だ。だらだらと続いていく日常と、とりとめもなく書き留めただけの小説。あらすじを語ろうにも、筋らしい筋がない。なのに、どうしてこんなに心に残るのかが不思議だ。
 いつか、続きを読む。けれどそれは本当にいつでもいい。いつ読んでも、この小説はするりとその世界に私を入り込ませてくれると思う。

Q24. この本とこの本は合わせて読むのがオススメ、という本を1組教えてください。
限りなく透明に近いブルー』 村上 龍
 村上龍の名前を知らない人はいないだろう。そのデビュー作が『限りなく透明に近いブルー』だということを知らない人も。読んだことがあるという人も多いと思う。
 村上龍の小説はあくがきつい。集中して読まないと何が書いてあるのかわからないままただページだけが流れていってしまう。
 この小説を面白いとは言わない。けれど確かに、存在を無視してしまうことのできる小説ではないな、とも思う。
『蛇にピアス』 金原 ひとみ
 そして、金原ひとみさんの『蛇にピアス』は『限りなく透明に近いブルー』の脈を明確に受け継いでいる。これも誰もが知っていることだろうと思う。我ながら凡庸でつまらない組み合わせを選んだなと思う。けれどやっぱり、この二作の共鳴は無視できなかった。
 金原さんの最近の短編をいくつか読んだことがある。そこにはもう村上龍の気配は希薄だ。少なくとも私には感じられない。だからこそ、このふたりのデビュー作がこれほど近しい小説だということに、興味が湧く。

Q25. これまでの質問では言い切れなかった本を、2冊教えてください。
『バトル・ロワイアル』 高見 広春
 映画がセンセーショナルな話題になったせいで、ずいぶんキワモノ扱いされている小説じゃないかと思う。人目を引く奇抜な設定だけが売りの、中身のない低俗な小説だと。
 けれど、もしそう決めつけてこの本を読まずにいるなら、それはあまりにもったいない。
 登場人物は中学三年生一クラス。そのひとりひとりについて描写し、その死に様を描く。文章はうまくない。しかし不器用だからこその丹念さで次々に描かれる十五歳のドラマは、目を見張るものがある。
弱法師』 中山 可穂
 私にとって中山可穂さんは特別な作家だ。私は小説家を苗字にさんをつけて呼ぶ。けれどこの人だけは、可穂さんと名前で呼んでしまう。
 可穂さんは、女性同士の恋愛を、必ず性交を絡めながら書いてきた作家だ。その彼女が、この本では性を抜きにしてビアンを書いた。みっつ収められた短編の、なかでも私は「卒塔婆小町」が忘れがたい。「完璧な短編」と呼んでいい作品だと思う。

配布元
2010.11.20